伍 之 剽窃
文字数 1,248文字
三つ子だったんだと驚いた。
双子なら時々見かけるが三つ子だと珍しいんじゃないだろうかと車の陰に身をひそめ思った。
それで同僚の集合住宅にも似た顔の男がいることに納得した。
だが三人顔を合わせてこんな空き地で何をしてるのだろうか。
なんだか真っ当なことじゃないような気がする。
声は距離があるのでまったく聞こえない。このことを明日同僚に話したら盛り上がるのじゃないかと一瞬考えた。
陽は暮れて、辺りが薄暗くなってきた。
階下の男らはもう半時間ちかく話し込んでいる。
そろそろいいだろうと隠れている路駐車から離れることにした。三人のうち二人は顔が見えているので車の陰から出ると見られる可能性はあったが、背を向けている奴が階下の男で間違いないので見咎められることもないだろうと思いさり気なく車から離れた。
呼び止められることも追ってくることもなく繁華街へ入り人ごみを駅へ向かう。
歩きながら男らの不信感に苛 まれた。
何も兄弟ならあんな空き地でこそこそ会う必要もないじゃないか。
三人そろって良からぬことをしているのかもしれないと考え否定した。いいや、思い過ごしだ。そっちの方へ考えたいだけだ。ただの偶然だと戒 める。
人は偶然を意図的な物事だと考えがちだ。
駅からつけてきたように思えることも、三つ子だったことも、火災現場に居合わせたことも。
あれこれ考えながら駅に近づきふと人ごみの先へ視線を凝らすと駅から出てきた人に混ざり階下の男にそっくりな人物がいることに気づきとっさに店舗の大きな立て看板に身を隠した。
まさか!? 今度こそ他人の空似だ。
四つ子なんてありえない。
看板の端から顔半分出して人ごみを歩いてくるその男を見つめた。似ているのは顔のつくりだけではない。三つ子と同じように黒縁の眼鏡をかけ髪もオールバックにしているし痩せた体型もそっくりだ。
看板の陰にい続けると男がやってくるので店に入った。
ドアが磨り硝子の居酒屋で少し安心できた。
ボックス席に案内されお絞りとお冷やが出されるまで男のことを考え続けていた。
似ているだけでなく同じような時刻に同じ駅に下りてくる。
店の前を通り過ぎたその男も空き地へ行くのだろうか。
あのまま車の陰に隠れて様子を探り続けたら男らが四人集まるのを眼にしたかもしれない。
もうストーカー云々どころの話でなく得体の知れぬ怖さが臓腑に居座った。
適当なものを注文し大して箸もつけず一時間ほどで居酒屋を後にした。
駅へ歩くのも恐ろしくちょうど走って来たタクシーを拾いマンションまで帰った。
エントランスやエレベーターであの階下の男に会いたくなくておどおどしながら階段を使い自宅フロアまで足音を忍ばせて帰った。
部屋に戻りバッグをガラステーブルに放り出しリモコンでテレビをつけた。
ニュースをやっておりまた火災の報道を眼にして見続けた。
放火犯人が捕まりパトカーに乗せられるところが取材されていた。
一瞬映った警官に両脇つかまれた人物が階下の男で眼を強 ばらせた。
双子なら時々見かけるが三つ子だと珍しいんじゃないだろうかと車の陰に身をひそめ思った。
それで同僚の集合住宅にも似た顔の男がいることに納得した。
だが三人顔を合わせてこんな空き地で何をしてるのだろうか。
なんだか真っ当なことじゃないような気がする。
声は距離があるのでまったく聞こえない。このことを明日同僚に話したら盛り上がるのじゃないかと一瞬考えた。
陽は暮れて、辺りが薄暗くなってきた。
階下の男らはもう半時間ちかく話し込んでいる。
そろそろいいだろうと隠れている路駐車から離れることにした。三人のうち二人は顔が見えているので車の陰から出ると見られる可能性はあったが、背を向けている奴が階下の男で間違いないので見咎められることもないだろうと思いさり気なく車から離れた。
呼び止められることも追ってくることもなく繁華街へ入り人ごみを駅へ向かう。
歩きながら男らの不信感に
何も兄弟ならあんな空き地でこそこそ会う必要もないじゃないか。
三人そろって良からぬことをしているのかもしれないと考え否定した。いいや、思い過ごしだ。そっちの方へ考えたいだけだ。ただの偶然だと
人は偶然を意図的な物事だと考えがちだ。
駅からつけてきたように思えることも、三つ子だったことも、火災現場に居合わせたことも。
あれこれ考えながら駅に近づきふと人ごみの先へ視線を凝らすと駅から出てきた人に混ざり階下の男にそっくりな人物がいることに気づきとっさに店舗の大きな立て看板に身を隠した。
まさか!? 今度こそ他人の空似だ。
四つ子なんてありえない。
看板の端から顔半分出して人ごみを歩いてくるその男を見つめた。似ているのは顔のつくりだけではない。三つ子と同じように黒縁の眼鏡をかけ髪もオールバックにしているし痩せた体型もそっくりだ。
看板の陰にい続けると男がやってくるので店に入った。
ドアが磨り硝子の居酒屋で少し安心できた。
ボックス席に案内されお絞りとお冷やが出されるまで男のことを考え続けていた。
似ているだけでなく同じような時刻に同じ駅に下りてくる。
店の前を通り過ぎたその男も空き地へ行くのだろうか。
あのまま車の陰に隠れて様子を探り続けたら男らが四人集まるのを眼にしたかもしれない。
もうストーカー云々どころの話でなく得体の知れぬ怖さが臓腑に居座った。
適当なものを注文し大して箸もつけず一時間ほどで居酒屋を後にした。
駅へ歩くのも恐ろしくちょうど走って来たタクシーを拾いマンションまで帰った。
エントランスやエレベーターであの階下の男に会いたくなくておどおどしながら階段を使い自宅フロアまで足音を忍ばせて帰った。
部屋に戻りバッグをガラステーブルに放り出しリモコンでテレビをつけた。
ニュースをやっておりまた火災の報道を眼にして見続けた。
放火犯人が捕まりパトカーに乗せられるところが取材されていた。
一瞬映った警官に両脇つかまれた人物が階下の男で眼を