伍 之 示唆

文字数 1,076文字


 宿舎の廊下に出ると男性自衛官の一人が無線で連絡をとった。

 警護対象者を確保。これより装甲車へ向かうと言い、第二小隊が甲壱(こうひと)と交戦中とスピーカーから流れ三人が顔を見合わせ付き添われ足早に玄関へと向かった。

 交戦中とはどういうことですと(たず)ねると駐屯地の外から柵を破って侵入した甲壱(こうひと)警邏隊(けいらたい)が確保しようとして増援を含め六人が倒され特殊作戦群第一中隊に応援を求めてきたと説明された。

 あなた方はあれ(・・)を舐めているのですかと警告した。

 いえ、そんなことは決してなく自動小銃の使用許可並びに手榴弾の使用まで許されているという。

 手榴弾って爆発物だと気づいた。

 どれくらい人を損なうのだろう!?

 あのワンピースの女は、警察の拳銃弾には無敵でいながら自衛隊の狙撃銃には(もろ)くも腕と脚を奪い取られた。

 宿舎の外に出て驚いたのは装甲車という乗り物だった。

 片側に大きなタイヤが四輪もあり、なら八輪もある。しかも側面にドアがないとその角張った普通の乗用車とまるっきりかけ離れた車に顔を強ばらせた。

 Wという装甲車です。いかに甲壱(こうひと)が力があっても壊せませんし毎時百キロも出されたら追いつけないでしょうと説明された。

 時速百キロは駆け足でも無理だろうが、3センチの鋼鉄製の扉を壊して逃走したと三佐から聞かされたことを言い出せなかった。

 隊員らに後部へ案内され、そこに地面にまで傾斜した全面の扉が下りており一人の隊員から上り入るように言われ中に入って向かい合わせの席に腰を下ろすと残りの三名の隊員らも乗り込み後部の傾斜扉がせり上がり完全に閉じると装甲車が走り始めた。

 エンジンがかかっていて普通の乗用車よりもうるさく振動がある。

 どこに行くのですと問うと、少し公道を走り演習場へ向かうという。

 ヘリコプターが下りた場所だとすぐに気づいた。

 一度、甲壱(こうひと)に距離を稼ぎ、演習場で(たた)くという。

 (たた)く!? 交戦して圧された相手をどうやってと眉根しかめた。そんなに目論み通りゆくのかと不安が膨れ上がった。

 天井には車内から立って外の様子を確認できる天窓のようなものがありその扉を跳ね上げ隊員が外に半身曝(さら)し周囲を警戒し始めた。

 だが向かいの席から外が見えるのは前右にある運転席の小さな窓からの光景だけで、外と(へだ)てられている方がかえって不安を(あお)られると思った。


 いきなりの急制動で長椅子から落ち掛かり二人の隊員に支えられた。


 何があったのかと思った刹那(せつな)、いきなり車内左の壁が激しく(たた)かれ鋼鉄の壁が盛り上がって取り付けられている消火器の留め具が外れ消火器が床に落ちて跳ね、驚いて反対の壁へと身を逃がした。





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