第37話 不穏な手紙

文字数 587文字

 フローレスなら以前にも来ている。だいたいの土地勘はあるはずだが、細い運河が複雑に入り組んだ迷路のような街だ。道に迷っているのだろうか。
 が、利発なあの子たちなら迷ったとしても、地元の者に聞き聞きしてちゃんと帰ってこられるはずだ。
 不吉な予感が背中を這い上ってきた、その時だ。
 物資の調達に行っていた勇駿たちが戻ってきた。勇駿は阿梨を見るなり、桟橋から大声で呼びかける。
「勇利と梨華は船にいるか !?
 阿梨も甲板から身を乗り出して叫び返す。
「いいや、いない! 二人だけで街に出たらしい」
 離れていても勇駿の動揺が伝わってきた。彼は蒼白な顔で渡し板を駆け登り、手にしていた紙を阿梨に渡した。
「これは?」
「とにかく読んでみてくれ」
 言われるまま書きつけられた文面に視線を走らせる阿梨の顔色が、みるみるうちに変わていった。
「これをどこで……」
「港に戻って桟橋に向かおうとしていた時だ。見知らぬ子供から渡された。この船の者に書きつけを渡すようにと頼まれたらしい」
「その子供は何か知っていないのか !?
「いや、たずねてみたが、ただ単に駄賃をもらって頼まれただけだと言っていた。地元の子供だ。おそらく無関係だろう」
 阿梨はきつく唇を噛み、紙切れを握りしめた。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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