第13話 出港

文字数 668文字

「姫さま、ここでお別れでございます」
 陸路、姫を送ってきた護衛団の長、シクロ将軍が万感の想いをこめていとまを告げる。
 アディーナ姫もまた、あふれそうになる涙をこらえて、別れの言葉を口にする。
「今までありがとう、将軍。世話をかけました」
 とんでもございません、と首を横に振り、将軍は姫を見つめた。
「道中お気をつけて。どうぞ、おすこやかに……。姫さまのお幸せを心より祈っております」
 それから阿梨の方を向いて、
「何とぞ姫さまをお頼み申します」
 阿梨は胸にすっと手を当てて頭を下げる。
「では、今この時よりアディーナ姫の御身、わが羅紗水軍がお預かりし、責任をもってサマルディンの出迎えの部隊までお送りいたします」
 出発の時刻が近づく。姫の乗る船には、緋色の地に金で獅子の刺繍の入った羅紗の旗と並び、緑の地に白い三日月と星があしらわれたタジクの旗が掲げられる。
「錨を上げよ! 出港する!」
 阿梨の宣言で錨が上げられ、船はゆっくりと動き出す。
 アディーナ姫は甲板から大きく手を振った。シクロ将軍を初め、タジクから付き添ってくれた者たちの多くとは、ここで別れなければならない。
 空は晴れ渡り、順風に恵まれた、船出には絶好の日よりだ。
 故郷と人々に別れを惜しむかのように、アディーナ姫は長いこと甲板に立ちつくしていた。
 
 この時、婚礼を阻止すべく二人の男が寄港地に先回りしていることなど、船団では誰ひとり知る者はいなかった。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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