第75話 一同を代表して
文字数 525文字
梨華は大きな手で自分を抱き止めてくれる父を見上げて、
「父さま、母さまは?」
「今、ムジーク先生が診てくれているよ」
「ムジーク先生が……」
父の言葉をなぞらえ、梨華は大丈夫、と自分に言い聞かせた。ムジーク先生は名医だ。怪我だって先生のおかげでずいぶん良くなった。だから母さまだって、きっと。
部屋の中からかすかに話し声がする。四人は息をひそめ、少しでも中の様子を知ろうとするが、話の内容まではわからない。
さらに長い時間が過ぎたように思われた後、ようやくドアが中から開き、ムジーク医師が姿を現した。
「先生、妻は……」
一同を代表してたずねる勇駿に、医師はおごそかな口調で告げた。
「貧血ですな。だいぶお疲れがたまっているようです。無理をされてきたのでしょう」
「……」
図星をさされ、夫としてぐうの音も出ない。
「当分は安静にしていないと。それからきちんと栄養を取って……くれぐれも無理はいけませんぞ。今が一番大事な時期ですから」
「は?」
勇駿が訊き返したところでムジーク医師は梨華に眼を止める。
「梨華ちゃん、まだ動いてはいけないよ」
「父さま、母さまは?」
「今、ムジーク先生が診てくれているよ」
「ムジーク先生が……」
父の言葉をなぞらえ、梨華は大丈夫、と自分に言い聞かせた。ムジーク先生は名医だ。怪我だって先生のおかげでずいぶん良くなった。だから母さまだって、きっと。
部屋の中からかすかに話し声がする。四人は息をひそめ、少しでも中の様子を知ろうとするが、話の内容まではわからない。
さらに長い時間が過ぎたように思われた後、ようやくドアが中から開き、ムジーク医師が姿を現した。
「先生、妻は……」
一同を代表してたずねる勇駿に、医師はおごそかな口調で告げた。
「貧血ですな。だいぶお疲れがたまっているようです。無理をされてきたのでしょう」
「……」
図星をさされ、夫としてぐうの音も出ない。
「当分は安静にしていないと。それからきちんと栄養を取って……くれぐれも無理はいけませんぞ。今が一番大事な時期ですから」
「は?」
勇駿が訊き返したところでムジーク医師は梨華に眼を止める。
「梨華ちゃん、まだ動いてはいけないよ」