第18話 阿梨の質問
文字数 812文字
「今宵はお招きいただき、どうもありがとうございました」
「何の、こちらこそ楽しゅうございましたぞ」
礼を述べる姫に皆を代表して勇仁が答える。
阿梨は姫を部屋まで送り届けるべく、席を立った。
食堂を出て、通路を歩きながらアディーナ姫は消え入りそうな声で、
「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ」
いいえ、と阿梨は柔らかく首を横に振った。
「そのようなことはございません。姫は故国を離れられたばかりなのですから、懐かしむ気持ちがあって当然です」
姫は気持ちを落ち着かせるように、胸に手を当てて小さく息を吐く。
「けれど、今夜は本当に楽しかったですわ。ご家族がそろって夕食のテーブルを囲み、お子さまたちの楽しげな笑い声が響いて……。わたくしも阿梨さまのような家庭を築けますかしら」
阿梨は少しの間逡巡していたが、やがて思い切ったように口を開いた。
「ひとつ、うかがってもよろしいでしょうか」
はい? とアディーナ姫が阿梨に視線を当てる。
「無礼な質問であったらお許しください。この度の縁組、姫ご自身はどうお思いになっておられるのでしょうか」
アディーナ姫は幾度かまばたきしてから、ほのかに笑った。
「阿梨さまはわたくしの婚礼が、政略結婚だとお考えなのですね」
どう返答したらよいか阿梨が迷っている間に、二人はアディーナ姫の部屋の前に着いてしまう。
「どうぞ、お入りになって。よろしければ、もう少しお話ししたいですわ」
姫は先に部屋に入り、阿梨を招き入れる。今夜は侍女たちは船酔いにやられて早々に自室に引きこもり、姫と阿梨の二人だけだ。
部屋はきれいに片づけられ、天蓋付きの寝台が置かれている。鏡台と衣装の収納家具も備えられ、とても一週間前まで物置だったとは思えない立派な貴賓室に変貌を遂げている。
「何の、こちらこそ楽しゅうございましたぞ」
礼を述べる姫に皆を代表して勇仁が答える。
阿梨は姫を部屋まで送り届けるべく、席を立った。
食堂を出て、通路を歩きながらアディーナ姫は消え入りそうな声で、
「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ」
いいえ、と阿梨は柔らかく首を横に振った。
「そのようなことはございません。姫は故国を離れられたばかりなのですから、懐かしむ気持ちがあって当然です」
姫は気持ちを落ち着かせるように、胸に手を当てて小さく息を吐く。
「けれど、今夜は本当に楽しかったですわ。ご家族がそろって夕食のテーブルを囲み、お子さまたちの楽しげな笑い声が響いて……。わたくしも阿梨さまのような家庭を築けますかしら」
阿梨は少しの間逡巡していたが、やがて思い切ったように口を開いた。
「ひとつ、うかがってもよろしいでしょうか」
はい? とアディーナ姫が阿梨に視線を当てる。
「無礼な質問であったらお許しください。この度の縁組、姫ご自身はどうお思いになっておられるのでしょうか」
アディーナ姫は幾度かまばたきしてから、ほのかに笑った。
「阿梨さまはわたくしの婚礼が、政略結婚だとお考えなのですね」
どう返答したらよいか阿梨が迷っている間に、二人はアディーナ姫の部屋の前に着いてしまう。
「どうぞ、お入りになって。よろしければ、もう少しお話ししたいですわ」
姫は先に部屋に入り、阿梨を招き入れる。今夜は侍女たちは船酔いにやられて早々に自室に引きこもり、姫と阿梨の二人だけだ。
部屋はきれいに片づけられ、天蓋付きの寝台が置かれている。鏡台と衣装の収納家具も備えられ、とても一週間前まで物置だったとは思えない立派な貴賓室に変貌を遂げている。