第27話 梨華の抗議

文字数 541文字

「どうして !? どうして街に行ってはいけないの?」
 船上から海の都と呼ばれるフローレスの街並みが見えてくる頃、梨華は猛然と母に抗議していた。
此度(こたび)はアディーナ姫が街に降りられる。わたしはその警護をしなければならないし、他の者は物資の補給の手配をしなくてはならない。子供に付き添う人手はないのだよ」
「もう子供じゃないわ!」
「まだ子供だ」
 さらりといなす母に、梨華は納得いかないという風に顔を真っ赤にして頬をふくらませる。
 母と妹に挟まれ、おろおろする勇利のそばで、険悪な親子の間に割って入ったのは勇仁だ。
「まあ二人とも落ち着かんか。梨華と勇利にはわしが付き添うというのはどうじゃ?」
義父(ちち)上には残って船を守っていただかなくては困ります」
 ぴしゃりと答える阿梨に、勇仁はうーむと唸る。
「困ったのう」
「今回は我慢しなさい。次に来た時には必ず街に行かせてあげるから」
「……」
 梨華は無言だった。母にそう言われても気持ちは収まらない。
「仕方ないよ、梨華」
 なぐさめようとする兄に、八つ当たり気味に思いっきり舌を出すと、梨華は船室に駆け込んでいった。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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