第73話 嘘
文字数 580文字
「兄さま」
「え?」
ふと見ると、梨華が間近で自分の顔をのぞきこんでいる。
「今朝は何だか変ね。そわそわして心ここにあらず、って感じ」
「べっ、別にそわそわなんて……」
してないよ、と言おうとする勇利をさえぎり、
「兄さまは嘘が下手ね」
妹の鋭い指摘にうっと言葉につまる。
「あたしを騙そうとしても駄目よ。生まれた時から一緒にいるんだもの、すぐにわかっちゃうわ。自分で気づいてる? 兄さまってね、嘘つく時、眼をそらしちゃうのよ」
「……」
何と返答してよいか迷う兄に、梨華は得意げに笑う。
「きっとあたしの方が嘘をつくのは上手いわ」
「それ、全然自慢にならないよ」
いささか呆れ顔の兄に、梨華は真摯 な瞳を向けた。
「本当のこと教えて。どうして今朝は兄さまが来たの? 母さまはどうしたの? ……何かあったの?」
しばらく眼を閉じていた阿梨はやがて瞼を開け、嘘だ、とぽつりとつぶやいた。
「悟ったようなことを言っているけど、本当は嘘だ。夫と子供たちと、もっとずっと一緒に生きたいに決まっている!」
心の底から、ほとばしり出る言葉。
「阿梨……!」
勇駿は椅子から立ち上がり、枕もとにひざまずくと阿梨を抱きしめた。阿梨もまた勇駿の首に腕を回す。
「え?」
ふと見ると、梨華が間近で自分の顔をのぞきこんでいる。
「今朝は何だか変ね。そわそわして心ここにあらず、って感じ」
「べっ、別にそわそわなんて……」
してないよ、と言おうとする勇利をさえぎり、
「兄さまは嘘が下手ね」
妹の鋭い指摘にうっと言葉につまる。
「あたしを騙そうとしても駄目よ。生まれた時から一緒にいるんだもの、すぐにわかっちゃうわ。自分で気づいてる? 兄さまってね、嘘つく時、眼をそらしちゃうのよ」
「……」
何と返答してよいか迷う兄に、梨華は得意げに笑う。
「きっとあたしの方が嘘をつくのは上手いわ」
「それ、全然自慢にならないよ」
いささか呆れ顔の兄に、梨華は
「本当のこと教えて。どうして今朝は兄さまが来たの? 母さまはどうしたの? ……何かあったの?」
しばらく眼を閉じていた阿梨はやがて瞼を開け、嘘だ、とぽつりとつぶやいた。
「悟ったようなことを言っているけど、本当は嘘だ。夫と子供たちと、もっとずっと一緒に生きたいに決まっている!」
心の底から、ほとばしり出る言葉。
「阿梨……!」
勇駿は椅子から立ち上がり、枕もとにひざまずくと阿梨を抱きしめた。阿梨もまた勇駿の首に腕を回す。