第3話 海を越えて

文字数 367文字

「で、勇利は?」
 笑いを噛み殺しながら阿梨がたずねると、祖父は渋面を作って、
「まだまだ修練が必要じゃな」
 名指しされた勇利は口をとがらせる。
「僕が弱いんじゃなくて梨華が強すぎるんだよ。学問なら僕の方が上だ」
「ふーんだ、いざという時には武術の方が役に立つわよ」
 兄に舌を出して見せてから、梨華は無邪気に母にまとわりつく。
「ねえ、今度はどこへ航海するの? どんな荷を運ぶの?」
 彼らは海の民。船を自在に操り、交易を生業とする一族。そして先代の孫であった阿梨は、女性でありながら水軍の長を務めている。
「何だと思う?」
 首をかしげる梨華に、
「海を越えて西の大陸へ送り届けるのは、とびきり素敵なもの……いや、ものではなくて人だな。わたしもこのような依頼は初めてだ」
「……わかんないわ」
 降参する梨華に阿梨は微笑みながら、
「花嫁だよ」
 と答えた。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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