第25話 海の都

文字数 695文字

 フローレスは独立した海洋都市国家として長い歴史を持ち、さまざまな人や物が行き交う交易の中継地点である。
 街の中央を流れる大運河沿いには貴族や商人の壮麗な館が居並び、そこから小運河が街のいたる所に張り巡らされている。
 この街では馬車は使われない。細い運河でも入っていける小舟が人々の足となる。
「いよいよアディーナ姫を乗せた羅紗の船団がこのフローレスに入港するらしいぞ」
「やっとお出ましか」
 大運河に面した賑やかな酒場で、ケインとラルフは船の往来を眺めながら、例の計画について話しこんでいた。
 策は幾通りも考え、人も集めた。金で集めた連中だが、腕は確かだ。
 用意した策のどれでもいい。要は雇い主の依頼通り、婚礼を阻止できればよいのだ。
「船が入ってきたら俺たちも出迎えに行こうじゃないか。歓迎してやろうぜ」
 この地方特産の香り高い白葡萄酒の注がれたグラスを手に、ケインは不敵な笑みを浮かべた。

「明日、船団はフローレスに寄港します。食料や水といった必要な物資を補給せねばなりません」
 報告に訪れた阿梨にアディーナ姫が問いかける。
「阿梨さまも街に降りられますの?」
「はい。いろいろと指図せねばなりませんので」
「さようですの……」
 姫は少しためらった後、
「あの、お願いがありますの。フローレスの街に、わたくしも同行させてはいただけませんでしょうか」
「姫君が?」
 阿梨はわずかに眉根を寄せた。
「危険です。フローレスでは護衛の兵も少なく、姫の御身の安全に懸念があります」




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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