第26話 籠の鳥となる前に
文字数 689文字
アディーナ姫は眼を伏せた。阿梨の言い分はもっともだ。
けれど。わかってはいても。
「一度でいい、普通の娘として街に出てみたいのです」
日頃はたおやかな姫が、いつになく熱っぽい口調で言いつのる。
「気ままに通りを歩いたり、市場をのぞいたり……。わたくしはそのような経験をしたことがありません。おそらくは嫁いだ先でも同じでしょう」
タジクの王女として生まれ、王女として生きてきた。
ずっと宮廷の中で育ち、滅多にない外出も輿に乗り、大勢の護衛を従えて。
自由に街を歩いたことなど、一度もなかったのである。
サマルディンの第一王子と結婚すれば、いずれは王妃となる。ますます自由はなくなっていくだろう。
アディーナ姫と言葉を交わしながら、阿梨は自分がいかに自由に生きてきたか、気づかされずにはいられなかった。
同じ王女でも阿梨は船に乗り、行きたい場所へ行き、自分の選んだ相手と結婚した。
それは王女という立場からすれば、何と贅沢な生き方であっただろう。
眼の前の姫の気持ちが痛いほど伝わってくる。籠の鳥となってしまう前に、彼女はひとときの自由を望んだのだ。
阿梨はまっすぐにアディーナ姫を見つめると、こくりとうなずいた。
「承知いたしました。では、町娘の格好をして船をお降りください。水軍でも腕の立つ者を護衛におつけします。わたしもご一緒いたしましょう」
「本当に?」
「二言はございません」
「ありがとう、阿梨さま!」
アディーナ姫は頬を上気させて阿梨の手を握った。
けれど。わかってはいても。
「一度でいい、普通の娘として街に出てみたいのです」
日頃はたおやかな姫が、いつになく熱っぽい口調で言いつのる。
「気ままに通りを歩いたり、市場をのぞいたり……。わたくしはそのような経験をしたことがありません。おそらくは嫁いだ先でも同じでしょう」
タジクの王女として生まれ、王女として生きてきた。
ずっと宮廷の中で育ち、滅多にない外出も輿に乗り、大勢の護衛を従えて。
自由に街を歩いたことなど、一度もなかったのである。
サマルディンの第一王子と結婚すれば、いずれは王妃となる。ますます自由はなくなっていくだろう。
アディーナ姫と言葉を交わしながら、阿梨は自分がいかに自由に生きてきたか、気づかされずにはいられなかった。
同じ王女でも阿梨は船に乗り、行きたい場所へ行き、自分の選んだ相手と結婚した。
それは王女という立場からすれば、何と贅沢な生き方であっただろう。
眼の前の姫の気持ちが痛いほど伝わってくる。籠の鳥となってしまう前に、彼女はひとときの自由を望んだのだ。
阿梨はまっすぐにアディーナ姫を見つめると、こくりとうなずいた。
「承知いたしました。では、町娘の格好をして船をお降りください。水軍でも腕の立つ者を護衛におつけします。わたしもご一緒いたしましょう」
「本当に?」
「二言はございません」
「ありがとう、阿梨さま!」
アディーナ姫は頬を上気させて阿梨の手を握った。