第63話 母の話
文字数 619文字
そこへ軽く扉を軽く叩く音がして、父の勇駿が入ってくる。
阿梨は振り返って椅子から立ち上がり、
「ちょうど知らせに行こうと思っていたところだ。梨華が眼を覚ましたぞ!」
母の弾んだ言葉に、父は足早に寝台に歩み寄る。
「梨華……よかった……」
「父さまにも心配かけてごめんなさい」
梨華の手を取り、父は安心と喜びのこもったまなざしを向ける。
「父上や船の皆にも知らせなくては。勇利を寝かせつけたら、すぐに報告するよ」
勇利? と梨華は視線だけ動かして兄の姿を探すと、壁際の長椅子に丸くなって眠りこんでいる。
「さっきまでずっと起きて付き添っていたのだが、さすがに疲れたようだな」
母が言えば、父も、
「すっかりしょげていたよ。自分は兄なのに妹を守れなかったってね」
「……」
父は眠っている兄を起こさないように、そうっと抱き上げる。
「勇利には起きたら伝えるよ」
「そうだな。今はゆっくり休ませてやろう」
梨華は眼がしらが熱くなるのを感じた。周囲のみんながこんなにも自分を案じてくれている。
兄を抱きかかえた父が出ていくと、部屋の中は母と娘の二人だけになる。
阿梨は寝台のかたわらの椅子に再び腰を降ろし、梨華の顔をじっと見つめた。
「梨華……話がある」
「なあに? 母さま」
いつになく真剣な母の表情に、梨華もまた真顔になる。
阿梨は振り返って椅子から立ち上がり、
「ちょうど知らせに行こうと思っていたところだ。梨華が眼を覚ましたぞ!」
母の弾んだ言葉に、父は足早に寝台に歩み寄る。
「梨華……よかった……」
「父さまにも心配かけてごめんなさい」
梨華の手を取り、父は安心と喜びのこもったまなざしを向ける。
「父上や船の皆にも知らせなくては。勇利を寝かせつけたら、すぐに報告するよ」
勇利? と梨華は視線だけ動かして兄の姿を探すと、壁際の長椅子に丸くなって眠りこんでいる。
「さっきまでずっと起きて付き添っていたのだが、さすがに疲れたようだな」
母が言えば、父も、
「すっかりしょげていたよ。自分は兄なのに妹を守れなかったってね」
「……」
父は眠っている兄を起こさないように、そうっと抱き上げる。
「勇利には起きたら伝えるよ」
「そうだな。今はゆっくり休ませてやろう」
梨華は眼がしらが熱くなるのを感じた。周囲のみんながこんなにも自分を案じてくれている。
兄を抱きかかえた父が出ていくと、部屋の中は母と娘の二人だけになる。
阿梨は寝台のかたわらの椅子に再び腰を降ろし、梨華の顔をじっと見つめた。
「梨華……話がある」
「なあに? 母さま」
いつになく真剣な母の表情に、梨華もまた真顔になる。