第40話 眼が覚めた時

文字数 619文字

 耳もとで誰かが呼びかけている。ささやくように小さいけれど、緊迫した声。
「梨華、ねえ、梨華ってば! 起きてよ!」
「う……ん……」
 この声は勇利だ。せっかく気持ちよく眠っていたのに、と梨華は不機嫌に眼を覚ました。
 眼を開けたとたん、兄の顔が視界に映る。そして背後には見知らぬ部屋の光景。
 眠気も吹き飛んで、梨華は頭をめまぐるしく働かせた。
 確か占い師の老婆に小屋に招き入れられて、出されたお茶を飲んだら急に眠くなって……。
 ここは、どこなのだ?
 自分はいったいどうなったのだ?
 そこまで考えた時、梨華は自分が後ろ手に縛られていることに気づいた。さらに腰のあたりにも縄が結ばれていて犬のように柱につながれている。勇利も同じ有様だ。
 梨華は動揺して兄の名を叫んだ。
「勇利、いったいこれ、どういうこと !?
 兄は困惑した表情で、
「僕にもわかんないよ。眼が覚めた時には縛られていて、ここに連れてこられていたんだ」
 梨華は混乱したまま、周囲を見渡した。石造りのがらんとした部屋。広いが、家具などは何もない。床には埃がつもっていて長年使われていないようだ。
「おや、おチビさんたちはやっとお目覚めか」
 声のした方を同時に振り向くと、部屋の扉が開いて男がひとり立っていた。銀髪を後ろでひとつにまとめ、精悍な雰囲気をまとった男だ。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み