第36話 戻らぬ二人
文字数 728文字
壮麗な海の都を照らす太陽が西に傾き始めた頃、阿梨はアディーナ姫と共に船に帰り着いた。
「阿梨さま、今日はとても楽しかったです。わたくし、決して忘れませんわ」
自由に、ただの娘として街を歩いた日。
「それはよろしゅうございました」
渡し板を先に歩きながら、阿梨は微笑して姫に手を差し伸べる。物資の調達に行った勇駿たちもそろそろ戻ってくる時刻だろう。
「……?」
アディーナ姫と共に甲板に立った阿梨は首をかしげた。どうしたわけか、多くの者が甲板に集まり、妙にざわついている。
「長!」
帰ってきた阿梨を見て、部下の一人がこわばった顔つきで呼びかけてくる。
「どうした? 何かあったのか?」
勇仁が近づいてきて唇を動かしかけたが、隣のアディーナ姫の姿を認めると言葉を呑み込んだ。
そして、ぎこちない笑顔で、
「あ、いや、大したことではないが後で話がある。姫君を部屋までお送りしたら、わしのところへ来てくれ」
「承知しました」
腑 に落ちない思いで阿梨はうなずいた。
かたわらのアディーナ姫も訝 しい思いを抱いたが、あえて何も問わずに自室へと戻っていく。
姫を船室まで送り届けると阿梨は勇仁のもとへ急いだ。
「義父上、何があったのです?」
「勇利と梨華が船を抜け出して、まだ帰ってこない。わしがついていながら……すまん」
「義父上のせいではございません。まったくあの子たちは……」
腕組みをして阿梨は大きく嘆息した。
二人がこっそり船を抜け出すのは、いかにもありそうな展開だ。
しかし陽が傾く時刻になっても戻ってこないのは解せない。
「阿梨さま、今日はとても楽しかったです。わたくし、決して忘れませんわ」
自由に、ただの娘として街を歩いた日。
「それはよろしゅうございました」
渡し板を先に歩きながら、阿梨は微笑して姫に手を差し伸べる。物資の調達に行った勇駿たちもそろそろ戻ってくる時刻だろう。
「……?」
アディーナ姫と共に甲板に立った阿梨は首をかしげた。どうしたわけか、多くの者が甲板に集まり、妙にざわついている。
「長!」
帰ってきた阿梨を見て、部下の一人がこわばった顔つきで呼びかけてくる。
「どうした? 何かあったのか?」
勇仁が近づいてきて唇を動かしかけたが、隣のアディーナ姫の姿を認めると言葉を呑み込んだ。
そして、ぎこちない笑顔で、
「あ、いや、大したことではないが後で話がある。姫君を部屋までお送りしたら、わしのところへ来てくれ」
「承知しました」
かたわらのアディーナ姫も
姫を船室まで送り届けると阿梨は勇仁のもとへ急いだ。
「義父上、何があったのです?」
「勇利と梨華が船を抜け出して、まだ帰ってこない。わしがついていながら……すまん」
「義父上のせいではございません。まったくあの子たちは……」
腕組みをして阿梨は大きく嘆息した。
二人がこっそり船を抜け出すのは、いかにもありそうな展開だ。
しかし陽が傾く時刻になっても戻ってこないのは解せない。