第5話 乙女の憧れ
文字数 589文字
義父への報告を終え、自室に戻ってきた阿梨に夫の勇駿が声をかけてくる。
「話は済んだかい?」
「ああ。この度の航海、妨害が入るやもしれぬと義父上にも伝えておいた」
話しながら上着の襟もとをゆるめ、ふうっと息をつく。
「子供たちは?」
「さっき寝かせつけた。梨華がなかなか寝ようとしなかったけどね。今回の客人が花嫁と聞いて、ずいぶんはしゃいでいたよ」
──だって海を渡る花嫁なんて素敵じゃない! しかも王女さまよ。まるでおとぎ話みたい。どんな方かしら。きっとすっごく綺麗な女性ね!
少女は寝台に入っても興奮冷めやらず、父と兄に熱っぽく乙女の憧れを語り続けたのである。
二人はそうっと隣室の扉を開け、身を寄せあって眠りの中にいる子供たちに、柔らかなまなざしを注いだ。
「こうして眠っている姿は天使のようなのだがな……」
苦笑しながら阿梨は毛布を掛け直してやり、二人でしばらく寝顔を眺めてから、子供たちを起こさないように静かに部屋を出ていく。
再び自室に戻ると阿梨は鏡台の前に座って、ひとつに結んでいた髪をほどいた。長い豊かな黒髪がぱあっと背に広がる。
「これから忙しくなるな。アディーナ姫が港に到着するまでに準備をしておかなくては」
「姫はやはりこの船に?」
「もちろん。姫にはわが水軍の旗艦にお乗りいただく」
往く先には陰謀の懸念がある。自分たちのいる旗艦こそが、最も姫の安全を守れる場所だろう。
「話は済んだかい?」
「ああ。この度の航海、妨害が入るやもしれぬと義父上にも伝えておいた」
話しながら上着の襟もとをゆるめ、ふうっと息をつく。
「子供たちは?」
「さっき寝かせつけた。梨華がなかなか寝ようとしなかったけどね。今回の客人が花嫁と聞いて、ずいぶんはしゃいでいたよ」
──だって海を渡る花嫁なんて素敵じゃない! しかも王女さまよ。まるでおとぎ話みたい。どんな方かしら。きっとすっごく綺麗な女性ね!
少女は寝台に入っても興奮冷めやらず、父と兄に熱っぽく乙女の憧れを語り続けたのである。
二人はそうっと隣室の扉を開け、身を寄せあって眠りの中にいる子供たちに、柔らかなまなざしを注いだ。
「こうして眠っている姿は天使のようなのだがな……」
苦笑しながら阿梨は毛布を掛け直してやり、二人でしばらく寝顔を眺めてから、子供たちを起こさないように静かに部屋を出ていく。
再び自室に戻ると阿梨は鏡台の前に座って、ひとつに結んでいた髪をほどいた。長い豊かな黒髪がぱあっと背に広がる。
「これから忙しくなるな。アディーナ姫が港に到着するまでに準備をしておかなくては」
「姫はやはりこの船に?」
「もちろん。姫にはわが水軍の旗艦にお乗りいただく」
往く先には陰謀の懸念がある。自分たちのいる旗艦こそが、最も姫の安全を守れる場所だろう。