第58話 花嫁の到着

文字数 487文字

 フローレスを発って三カ月。アディーナ姫を乗せた水軍の船は西の大陸コーラリア、ラクシュの港に到着しようとしていた。
 水平線の彼方に陸地が姿を現す。阿梨とアディーナ姫は甲板に並んで立ち、姫は熱心に前方を見つめている。
 ラクシュの港まで着けばサマルディン王国の軍隊が姫を迎えに来ているはずだ。
 花嫁を送り届ける──水軍の役目も終わろうとしている。
 追い風を帆に受け、陸はどんどん近づき、やがて港のたたずまいがはっきりと見えてくる。
 埠頭では正装したサマルディンの兵士たちが整列し、花嫁の到着を待っている。
 その中でもひときわ目立つ白馬に乗った人物を認めた時、アディーナ姫は瞠目(どうもく)し、声を上げた。
「ロジェさま……!」
 姫の視線の先、栗色の髪をした若者が手を振る姿に、阿梨は笑みを浮かべた。なるほど、彼が花婿というわけか。
 その晴れやかな笑顔に、心の隅にあった懸念がきれいに払拭されていく。あの誠実そうな青年なら、きっとアディーナ姫を幸せにしてくれるだろう。





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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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