第20話 なれそめ

文字数 654文字

「ところで、阿梨さまはいかがでしたの?」
「は?」
 唐突に話を振られて阿梨は眼をまるくした。
「勇駿さまとのなれそめをお聞きしとうございますわ」
「なれそめと言われましても……わたしが生まれた時から勇駿はそばにおりました。遊び相手兼護衛として、一緒に育ちました」
「お二人は幼馴染だったのですね」
 声を弾ませ、アディーナ姫は胸の前で両手を組み合わせる。
「あの……ご結婚される時にお父上……国王陛下は反対されませんでしたの?」
 何も、と阿梨はかぶりを振った。
 父である宣統王(せんとうおう)は穏やかな人物で、娘を手駒にしてどこぞの王家に嫁がせようなどという野心は全くなかったといっていい。 
 そもそも父が愛した母の真綾もまた海龍一族──海の民の娘だったのだから。
 それに、と阿梨は肩をすくめてみせる。
「わたしは以前、強引に迫ってきたとある国の王子を投げ飛ばしたことがありまして、噂はあっという間に広がり、縁組の申し込みなどひとつも来ませんでした」
 武勇伝を持つ型破り王女に、各国の王子たちも恐れをなしたらしい。
「むしろ一番反対したのは夫の父でした」
 当時の苦労を思い返し、阿梨は深いため息をついた。
「まあ、なぜ?」
「夫の父は忠義者というか頑固者というか、『身分が違う!』の一点張りで……」 
 確かに父は羅紗の国王ではあるけれど、同じ海の民の一族なのだから、違いなどありはしないというのに。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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