第21話 頑固親父の変貌

文字数 685文字

「最初に結婚の意向を報告した時、夫はあやうく手討ちにされるところでした」
 今思い出しても冷や汗ものだ。
 ──この不埒(ふらち)者! よりにもよって姫さまをたぶらかすとは……そこへなおれっ、父が成敗してくれるわ !!
 ──待てっ、勇仁、話を聞けっ !!
 勇仁は本気で刃を振り降ろし、阿梨がとっさに剣を抜いて刀身を受け止めなかったら、勇駿の首は胴体から離れていただろう。
「義父を説得するのは大変でした」
 阿梨は、はあ、と再び深いため息をつく。
 ガチガチ石頭の頑固親父は押しても引いてもびくともしない。
 業を煮やした阿梨は、いっそ子供でも作って反対できないようにしてしまおうと、枕をかかえて夜這いに行ったのだが、さすがにこの強行策は勇駿本人に反対されて実行されなかった。
 ──考えてもみてください。そのような事態になったら、今度こそ本当に俺の首が飛びます。
 枕をかかえたまま、阿梨は沈黙した。……それは困る。
「どうやって説得なさいましたの?」
「最終的にはわたしの父の口添えでどうにか収まりました」
 ──勇仁よ、そなたは自分の息子が信じられぬのか?
 国王陛下の仰せでは仕方がない……勇仁は渋々同意したが、やれ身分が違うだの王家に申し訳ないだの、結婚当初はずっとブツブツ言っていた。
 その頑固親父が変貌を遂げたのは、勇利と梨華が生まれた時だ。
 初孫を腕に抱いた瞬間、勇仁の鬼瓦のような表情はあえなく崩れ去り、今ではすっかり親バカ……いや、爺バカである。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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