第11話 気がかり
文字数 667文字
阿梨は胸に片手を当てて、深く礼をした。
「姫君にはご機嫌麗しゅう。初めてお目にかかります。わたくしは姫をサマルディン王国のある西の大陸までお送りする羅紗水軍の長、阿梨と申します」
姫は少し驚いたように緑の眼を見開いた。
「まあ、女性の方?」
柔らかな、鈴のように心地よい声だ。
はい、と答える阿梨に、
「女性の身で水軍を率いているなんて素晴らしいわ。アディーナ・クム・ヴェンドラミンと申します。お世話をかけますが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って微笑むアディーナ姫は人柄もよさそうだ。世間知らずの王族にありがちな高慢さは微塵もない。
その日はいわば挨拶で、多くの言葉を交わしたわけではない。
阿梨としてもこれから共に航海する主賓を、ひと目見ておきたかっただけだ。
海を渡って西の大陸コーラリアの港・ラクシュに着けば、サマルディン王国の出迎えの軍が待っているはずである。正確に言えば水軍の仕事はそこまでだ。
サマルディンもタジクと同じく海には面しておらず、自国の水軍を持っていない。そこで羅紗水軍への依頼となったわけだ。
「では、明日、港でお待ちしております」
姫にいとまを告げ、帰り際、阿梨はふとひとつだけ気になった。
この婚礼はタジクとサマルディンの絆を深めるための政略結婚だ。
姫自身はどう思っているのだろう。
住み慣れた故郷を離れ、遠い異国へ嫁ぐことになって、果たして幸せになれるのだろうか……。
「姫君にはご機嫌麗しゅう。初めてお目にかかります。わたくしは姫をサマルディン王国のある西の大陸までお送りする羅紗水軍の長、阿梨と申します」
姫は少し驚いたように緑の眼を見開いた。
「まあ、女性の方?」
柔らかな、鈴のように心地よい声だ。
はい、と答える阿梨に、
「女性の身で水軍を率いているなんて素晴らしいわ。アディーナ・クム・ヴェンドラミンと申します。お世話をかけますが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って微笑むアディーナ姫は人柄もよさそうだ。世間知らずの王族にありがちな高慢さは微塵もない。
その日はいわば挨拶で、多くの言葉を交わしたわけではない。
阿梨としてもこれから共に航海する主賓を、ひと目見ておきたかっただけだ。
海を渡って西の大陸コーラリアの港・ラクシュに着けば、サマルディン王国の出迎えの軍が待っているはずである。正確に言えば水軍の仕事はそこまでだ。
サマルディンもタジクと同じく海には面しておらず、自国の水軍を持っていない。そこで羅紗水軍への依頼となったわけだ。
「では、明日、港でお待ちしております」
姫にいとまを告げ、帰り際、阿梨はふとひとつだけ気になった。
この婚礼はタジクとサマルディンの絆を深めるための政略結婚だ。
姫自身はどう思っているのだろう。
住み慣れた故郷を離れ、遠い異国へ嫁ぐことになって、果たして幸せになれるのだろうか……。