第23話 食料調達

文字数 481文字

 泉翔(せんしょう)の港を出て十日ほど。
 空は雲一つなく晴れ渡り、波も穏やかだ。
 勇駿と阿梨は顔を見合わせ、うなずきあった。絶好の釣り日和である。
 こんな日には釣り大会が始まる。漕ぎ手以外の男たちは甲板にずらりと並び、釣り糸を垂れる。
 船窓から男たちが居並ぶさまを見かけたアディーナ姫は、船室から出てきて阿梨に声をかけた。
「いったい何事ですの?」
 阿梨は笑いながら振り返り、
「食料調達でございます」
 と返答する。
 事態が呑みこめず、首をひねるアディーナ姫に、
「どうぞ、お下がりください、姫。これから甲板では魚たちが飛び跳ねますので、ドレスが汚れるといけません」
「姫さま、どうぞ、こちらへ」
 勇利と梨華が走ってきてアディーナ姫をエスコートし、少し離れた帆柱のたもとにハンカチを敷いて座らせる。
 自分のかたわらで梨華も勇利もわくわくした表情を見せている。船の者は皆わかっているようだが、これからどうなるのか、アディーナ姫には皆目見当もつかない。 




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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