第80話 おまけエッセイ 海の都の宿探し2

文字数 610文字

 そう。世界に冠たる観光都市ベネチアでは、宿が高い・狭い・古い(ボロい)が常識だったのでした。

 勇駿の持ってきてくれたお茶を飲みながら阿梨はぼやきます。
「せっかくだから部屋から大運河の見える宿がいいと思ったんだ」
「うん」
「で、価格を調べてみたら、たったの3泊で4つ星ホテルの大運河ビュールームが20万以上! しかもたかが25㎡の部屋がスイートルームと呼ばれているのだぞっ」

 人口が密集する海上都市ベネチアのホテルではツインが15㎡なんてザラ。20㎡あれば堂々と「広々した部屋」と名乗れます。

「しかも部屋にバスタブ付きが少なくてな……」
 これは阿梨と一緒ならどこでも幸せという勇駿の、唯一の条件。(おか)にいる時くらい、のんびりお風呂に浸かりたいという、彼のささやかな希望です。
 しかし海の上いう特殊事情もあり、「部屋にバスタブあり」と検索をかけるとベネチア中の宿の半分くらいが脱落します。
 さらに口コミ情報をよく読まないと、バスタブがあってもお湯の出が悪かったりぬるかったりすることが多々あるので要注意。

 そして口コミをよーくチェックすると、やたらと出てくる「物音や話し声がつつぬけの薄い壁」と「傾いた床」。何せ建物が十五世紀だの十七世紀だの、おそろしく古い上に地盤が悪いので、仕方ないんですが。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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