第33話 小屋の中へ

文字数 630文字

「すごーい、どうしてわかるの? おばあちゃん」
「わかるさ。この水晶にすべて映し出されているよ」 
 首をかしげながら透明な玉を見つめていた梨華は、
「じゃあ、未来もわかる?」
「ああ、わかるとも」
「あたし、母さまの跡を継いで、いずれは立派な水軍の長になりたいの。なれるかしら」
 両手を胸の前で組み合わせ、真摯な瞳で問いかける。
「そうだねぇ、未来を視るにはもっとくわしく話を聞かなくちゃいけないね。中へお入り」
 カーテンで仕切られた小屋の入り口を指し示す。
「あ、でも、あたしたち、お金持ってないわ」
「なあに、気にしなくていいさ。特別だよ」
「ありがとう!」
 声を弾ませる梨華の袖を勇利が引く。
「梨華……よそうよ」
 老婆とはいえ見知らぬ相手だ。勇利が警戒するのも当然である。
 しかし兄の忠告は、がぜん興味をそそられた梨華の耳を素通りするだけだ、
「平気だってば。怖かったら兄さまはここに残ってなさい。あたしだけでも行くわ」
「またそんなこと言って~」
 勇利は躊躇(ちゅうちょ)していたが、梨華をひとりで行かせるわけにもいかず、仕方なく後をついて行く。
 二人はカーテンを手でどけて中に入った。内部は薄暗く、眼が慣れないうちは様子がよくわからない。ただ甘いお香のような匂いがする。
 老婆もまた二人の後についてゆっくりとした足取りで中に入ってくる。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み