第55話 氷のように
文字数 615文字
「梨華、勇利──」
おごそかな呼びかけに、子供たちはおそるおそる母を仰ぎ見る。
「この騒ぎの原因はすべて自分たちにある、とわかっているな?」
二人はしゅんとしてうなずく。
「言いつけを破って勝手に船を抜け出した挙句、かどわかされてこの有様だ。もし万一お借りした指輪が奪われていたら、アディーナ姫は婚礼が挙げられなかったかもしれないのだぞ」
手を取りあいながら、二人はおずおずと再度うなずく。危機が去った今、母はものすごく……怒っている。
「姫君に、義父上に、船の皆に謝りなさい」
「ご迷惑をかけてごめんなさい、アディーナ姫さま」
いいのよ、と穏やかに答える姫に、
「そうはまいりません。けじめはきちんとつけねば」
怒りをはらんだ母の声が、氷のように冷ややかで怖い。
梨華と勇利は身をすくませながら、これ以上はないくらい平身低頭する。
「心配かけてごめんなさい。おじいさま、父さま、母さま、船のみんな……」
消え入りそうに細い、哀れな声である。
「そんな小さな声では聞こえないぞ。もっと大きな声で!」
「阿梨、そろそろこの辺で……」
許してやってはどうか、と取りなそうとした勇駿は、阿梨の鋭い視線を浴びて言葉が喉の奥に引っ込んでしまう。
「みんな、ごめんなさいっ !!」
声を張り上げた後、子供たちは大泣きの合唱である。
おごそかな呼びかけに、子供たちはおそるおそる母を仰ぎ見る。
「この騒ぎの原因はすべて自分たちにある、とわかっているな?」
二人はしゅんとしてうなずく。
「言いつけを破って勝手に船を抜け出した挙句、かどわかされてこの有様だ。もし万一お借りした指輪が奪われていたら、アディーナ姫は婚礼が挙げられなかったかもしれないのだぞ」
手を取りあいながら、二人はおずおずと再度うなずく。危機が去った今、母はものすごく……怒っている。
「姫君に、義父上に、船の皆に謝りなさい」
「ご迷惑をかけてごめんなさい、アディーナ姫さま」
いいのよ、と穏やかに答える姫に、
「そうはまいりません。けじめはきちんとつけねば」
怒りをはらんだ母の声が、氷のように冷ややかで怖い。
梨華と勇利は身をすくませながら、これ以上はないくらい平身低頭する。
「心配かけてごめんなさい。おじいさま、父さま、母さま、船のみんな……」
消え入りそうに細い、哀れな声である。
「そんな小さな声では聞こえないぞ。もっと大きな声で!」
「阿梨、そろそろこの辺で……」
許してやってはどうか、と取りなそうとした勇駿は、阿梨の鋭い視線を浴びて言葉が喉の奥に引っ込んでしまう。
「みんな、ごめんなさいっ !!」
声を張り上げた後、子供たちは大泣きの合唱である。