第77話 もうひとり
文字数 587文字
「阿梨……」
今度こそ本当に怒られるかもしれないと、覚悟してぎゅっと眼を閉じる。
が、勇駿は阿梨の髪にそっとふれ、柔らかな口調で語りかけた。
「嬉しいよ。体を大事にして元気な子を産んでおくれ」
阿梨は眼を開け、泣き笑いのような表情で勇駿を見つめた。それまでぽかんと口を開けていた子供たちが歓声を上げる。
「すごーい! 妹? 弟? どっちかしら」
「僕は弟がいいな」
勇利は生まれてくる子が弟なら、共闘して梨華に対抗できるかもしれない、とひそかに思う。
「あら、あたしは妹がいいわ」
梨華は生まれてくる子が妹なら、綺麗なドレスを着せて、うんと可愛らしくさせてあげたいと思う。憧れのアディーナ姫のように。
後ろで腕組みをしている勇仁は、これではもうひとりの孫の顔を見るまでは死ねんわい、と考えこむ。
阿梨は手を差し出し、夫に呼びかけた。
「勇駿、帰りの航海の指揮を頼む。わたしはしばらくは動き回れそうにないのでな」
任せておけ、と阿梨の手を握りながら、勇駿はまだ見ぬわが子に思いをはせる。
ムジーク医師はにこにこしながら、皆の様子を見守っている。
何はともあれ、この水軍ファミリーにもうひとり加わって、さらに賑やかになるのは、もう少し先の話である。
完
今度こそ本当に怒られるかもしれないと、覚悟してぎゅっと眼を閉じる。
が、勇駿は阿梨の髪にそっとふれ、柔らかな口調で語りかけた。
「嬉しいよ。体を大事にして元気な子を産んでおくれ」
阿梨は眼を開け、泣き笑いのような表情で勇駿を見つめた。それまでぽかんと口を開けていた子供たちが歓声を上げる。
「すごーい! 妹? 弟? どっちかしら」
「僕は弟がいいな」
勇利は生まれてくる子が弟なら、共闘して梨華に対抗できるかもしれない、とひそかに思う。
「あら、あたしは妹がいいわ」
梨華は生まれてくる子が妹なら、綺麗なドレスを着せて、うんと可愛らしくさせてあげたいと思う。憧れのアディーナ姫のように。
後ろで腕組みをしている勇仁は、これではもうひとりの孫の顔を見るまでは死ねんわい、と考えこむ。
阿梨は手を差し出し、夫に呼びかけた。
「勇駿、帰りの航海の指揮を頼む。わたしはしばらくは動き回れそうにないのでな」
任せておけ、と阿梨の手を握りながら、勇駿はまだ見ぬわが子に思いをはせる。
ムジーク医師はにこにこしながら、皆の様子を見守っている。
何はともあれ、この水軍ファミリーにもうひとり加わって、さらに賑やかになるのは、もう少し先の話である。
完