第28話 自分たちだけで

文字数 561文字

 結局、梨華の抗議も空しく、兄妹は留守番を言いつけられた。信用されていないらしく、部屋には外側から鍵までかけられている。
 母たちが下船する姿を窓から眺め、
「つーまんないの」
 と梨華は寝台にひっくり返った。
 しばらくは寝そべったまま、眼を閉じていたが、急にがばっと跳ね起きると、
「ね、兄さま」
 何かを考えついた顔つきで、兄の顔をのぞきこむ。
 妹のわくわくした表情に勇利はとてつもなく嫌な予感がした。
「赤ん坊じゃあるまい、付き添いなんていらないわ。あたしたちだけで街に行ってみましょうよ」
「でも母さまに船に残っているように言われたよ」
「大丈夫よ。ちょっとだけ船を降りて、母さまたちが帰ってくる前に戻ってくればいいのよ」
「だけど……」
 ためらう勇利に梨華はつん、とそっぽを向いて、
「じゃいいわ。あたしひとりだけで行くから」
 さっそく船窓からの脱出用にシーツを寝台から外していく。
 フローレスなら前に一度行ったことがある。運河に沿って石造りのお屋敷が並び、どきどきするほど綺麗な街だった。
「待ってよ、梨華! ひとりでなんて危ないよ」
 梨華はくるりと振り返り、にんまり笑った。
「じゃ、一緒に行くわね?」




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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