第22話 海での夜
文字数 486文字
「もうひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「何なりと」
「女性の身で水軍の長となることに、ためらいはありませんでしたの?」
いいえ、と阿梨は即座に答えた。
「わたしは幼い頃から夫と一緒に、義父より海で生きていく術を学びました。航海術、海戦術、武術、さまざまな国の言葉……海では男も女も関係ありません」
「さようですの……」
アディーナ姫は胸に手を当て、そっと眼を伏せた。
自分はサマルディンの第一王子と結婚し、いずれは王妃となるだろう。でもそれはあくまで王の妃であって、女王ではない。自らが切り開く道ではないのだ。
阿梨はすっかり暗くなった船窓に視線をやり、
「夜も更けてまいりました。今日は姫君もお疲れでしょう。昔話はこのくらいにいたしましょう」
椅子から立ち上がり、ドアを開けると、丁重に一礼する。
「おやすみなさいませ、姫」
アディーナ姫もにこやかに挨拶を返す。
「おやすみなさい、阿梨さま」
こうして砂漠の国の姫の、海での初めての夜は過ぎていった。
「何なりと」
「女性の身で水軍の長となることに、ためらいはありませんでしたの?」
いいえ、と阿梨は即座に答えた。
「わたしは幼い頃から夫と一緒に、義父より海で生きていく術を学びました。航海術、海戦術、武術、さまざまな国の言葉……海では男も女も関係ありません」
「さようですの……」
アディーナ姫は胸に手を当て、そっと眼を伏せた。
自分はサマルディンの第一王子と結婚し、いずれは王妃となるだろう。でもそれはあくまで王の妃であって、女王ではない。自らが切り開く道ではないのだ。
阿梨はすっかり暗くなった船窓に視線をやり、
「夜も更けてまいりました。今日は姫君もお疲れでしょう。昔話はこのくらいにいたしましょう」
椅子から立ち上がり、ドアを開けると、丁重に一礼する。
「おやすみなさいませ、姫」
アディーナ姫もにこやかに挨拶を返す。
「おやすみなさい、阿梨さま」
こうして砂漠の国の姫の、海での初めての夜は過ぎていった。