第22話 海での夜

文字数 486文字

「もうひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「何なりと」
「女性の身で水軍の長となることに、ためらいはありませんでしたの?」
 いいえ、と阿梨は即座に答えた。
「わたしは幼い頃から夫と一緒に、義父より海で生きていく術を学びました。航海術、海戦術、武術、さまざまな国の言葉……海では男も女も関係ありません」
「さようですの……」 
 アディーナ姫は胸に手を当て、そっと眼を伏せた。
 自分はサマルディンの第一王子と結婚し、いずれは王妃となるだろう。でもそれはあくまで王の妃であって、女王ではない。自らが切り開く道ではないのだ。
 阿梨はすっかり暗くなった船窓に視線をやり、
「夜も更けてまいりました。今日は姫君もお疲れでしょう。昔話はこのくらいにいたしましょう」
 椅子から立ち上がり、ドアを開けると、丁重に一礼する。
「おやすみなさいませ、姫」
 アディーナ姫もにこやかに挨拶を返す。
「おやすみなさい、阿梨さま」
 こうして砂漠の国の姫の、海での初めての夜は過ぎていった。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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