第43話 どうにかして

文字数 568文字

「人質なら僕がなる。僕は水軍の長の嫡男だ。水軍は僕が継ぐ。梨華には人質の価値なんてないよ」
「ちょっと、何言って……」
「梨華は黙ってて!」
 いつもはもの静かな兄に気圧され、梨華は口をつぐむ。
「人質なら僕だけで充分だ。だから梨華は放してやってよ」
 勇利は必死に言いつのる。せめて妹だけも自由にしてやりたくて。 
 が、銀髪の男は勇利の考えを見抜いたように、
「麗しい兄妹愛だがそいつはできないな。おまえさんたちは長の双子だ。二人そろっていた方が値打ちがあるってもんだ」 
 あっさり却下すると、ドアが閉められ、がちゃりと鍵がかけられる。
 しばらくの沈黙の後、梨華は絞り出すような声で、
「……悔しい」
「梨華……」
「悔しい──悔しい! さらわれた挙句に人質にされるなんて! 母さまの足手まといになるなんて!」
 言葉と一緒に涙がぽたぽたと床に落ちていく。その涙をぬぐってやりたくても両手を縛られている勇利にはどうすることもできない。
 勇利は梨華をのぞきこんで、
「泣かないで、梨華。起きてしまったことは仕方ない。それより手だてを考えようよ」
 手だて? とうつむいていた梨華は顔を上げる。
「そう。どうにかしてここから逃げるんだ」




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み