第44話 青白い炎
文字数 764文字
同じ頃、水軍の旗艦の一室では阿梨を囲んで勇駿や勇仁、それに腹心の部下たちが机に地図を広げていた。
急ぎフローレスの地理に詳しい者が呼ばれ、彼は街の外れにぽつんと一軒だけ記された建物を指さした。
「ここが誘拐犯どもが指定してきた場所であり、おそらくは連中の本拠地でもあると思われます。今では使われていない修道院で、廃墟となっています」
修道院? と阿梨は訊き返したが、すぐに、
「ああ、この国の宗教施設か」
と思い出す。
「運河を隔てて向こう岸には死者の島と呼ばれる墓地があって、陽が落ちると地元の者は誰も近づきません」
「なるほど、悪党どもの根城にはうってつけだな」
「建物の周囲には林が広がっていて、水軍の方々は身を隠すには都合がよいかと思われます。表側の林と裏手の死者の島にひそんで取り囲み、挟み撃ちにできましょう」
「奴らは何と要求しているのじゃったかな?」
たずねる勇仁に阿梨は、
「指輪を持って長がみずから来るようにとの指示です」
そこでふん、と鼻を鳴らし、
「長が来るようにと書いてはあったが、ひとりで来いとはどこにも書いてなかったぞ。もっとも書いたとて本当にひとりで来るとは思っていないだろうがな。誘拐犯相手に礼儀正しくなどふるまえるものか」
峻厳な表情の、低い声。
隣に立つ勇駿は阿梨の怒りが痛いほど伝わってきた。
阿梨は怒りが深いほど、むしろ内に秘められていく。その姿は一見、静かだが、青白い炎に包まれているかのようだ。
すでに水軍でも手練れの者たちが武器を手に、いつでも発てるように準備を整えている。
阿梨は宙空を睨み、自分を奮い立たせるように宣言した。
「必ず、勇利と梨華を取り戻す──!」
急ぎフローレスの地理に詳しい者が呼ばれ、彼は街の外れにぽつんと一軒だけ記された建物を指さした。
「ここが誘拐犯どもが指定してきた場所であり、おそらくは連中の本拠地でもあると思われます。今では使われていない修道院で、廃墟となっています」
修道院? と阿梨は訊き返したが、すぐに、
「ああ、この国の宗教施設か」
と思い出す。
「運河を隔てて向こう岸には死者の島と呼ばれる墓地があって、陽が落ちると地元の者は誰も近づきません」
「なるほど、悪党どもの根城にはうってつけだな」
「建物の周囲には林が広がっていて、水軍の方々は身を隠すには都合がよいかと思われます。表側の林と裏手の死者の島にひそんで取り囲み、挟み撃ちにできましょう」
「奴らは何と要求しているのじゃったかな?」
たずねる勇仁に阿梨は、
「指輪を持って長がみずから来るようにとの指示です」
そこでふん、と鼻を鳴らし、
「長が来るようにと書いてはあったが、ひとりで来いとはどこにも書いてなかったぞ。もっとも書いたとて本当にひとりで来るとは思っていないだろうがな。誘拐犯相手に礼儀正しくなどふるまえるものか」
峻厳な表情の、低い声。
隣に立つ勇駿は阿梨の怒りが痛いほど伝わってきた。
阿梨は怒りが深いほど、むしろ内に秘められていく。その姿は一見、静かだが、青白い炎に包まれているかのようだ。
すでに水軍でも手練れの者たちが武器を手に、いつでも発てるように準備を整えている。
阿梨は宙空を睨み、自分を奮い立たせるように宣言した。
「必ず、勇利と梨華を取り戻す──!」