第46話 悪党稼業
文字数 808文字
「ほら、食べさせてやるから口開けな」
椀からさじですくい、梨華の眼の前に差し出す。
一瞬、手に噛みついてやろうかとも考えたが、それでは仮にも食事を持ってきてくれた相手に対して礼を欠くと思い直し、梨華は口を開けた。
自分は水軍の長の娘だ。母の名を貶 めるような卑怯なふるまいは断じてしたくない。
ひと口食べて梨華は顔をしかめた。
「……不味 い」
「贅沢言うな。俺が子供の頃はこれだってごちそうだったんだぜ。ほら、そっちの坊ちゃんも」
煮込みをすくい、今度は勇利にさじを向ける。
勇利は素直に口を開け、与えられた食事を飲みこんだ。確かに美味くはないが、妹のようにあからさまに酷評したりはしない。
しばらく二人はそうやって交互に食べさせてもらい、やがて食事が済むと一応、礼を述べた。こんな状況でも母の躾は行き届いている。
「ねえ、ラルフ」
梨華に名を呼ばれ、ラルフは視線を向ける。
「あんた、本当はいい人みたいなのに、どうしてこんな悪党稼業やってるの?」
「はは、悪党か」
椀を床に置くと、ラルフは額に手をやって苦笑した。
「ちゃんと両親がいて、まともに育ってきたおまえさんたちにはわからんだろうな」
青みがかった灰色の瞳が二人を見る。服装からも子供たちが大切にされているのがわかる。贅沢ではないが仕立てのよい、清潔なものだ。
「俺の親は、二人とも子供の頃に死んだ。まだ十にもなっていなかった俺はいつも腹を空かせてた。生きるためなら何だってしてきたさ」
使い走り、下働き、仕事にありつけない時には盗み……。
「それでも子供がひとりで生きていくのは困難だった。栄養失調で行き倒れて死にかけていたところをケインに助けられたのさ」
もしケインと出会わなければ、とっくに野垂れ死にしていただろう。
椀からさじですくい、梨華の眼の前に差し出す。
一瞬、手に噛みついてやろうかとも考えたが、それでは仮にも食事を持ってきてくれた相手に対して礼を欠くと思い直し、梨華は口を開けた。
自分は水軍の長の娘だ。母の名を
ひと口食べて梨華は顔をしかめた。
「……
「贅沢言うな。俺が子供の頃はこれだってごちそうだったんだぜ。ほら、そっちの坊ちゃんも」
煮込みをすくい、今度は勇利にさじを向ける。
勇利は素直に口を開け、与えられた食事を飲みこんだ。確かに美味くはないが、妹のようにあからさまに酷評したりはしない。
しばらく二人はそうやって交互に食べさせてもらい、やがて食事が済むと一応、礼を述べた。こんな状況でも母の躾は行き届いている。
「ねえ、ラルフ」
梨華に名を呼ばれ、ラルフは視線を向ける。
「あんた、本当はいい人みたいなのに、どうしてこんな悪党稼業やってるの?」
「はは、悪党か」
椀を床に置くと、ラルフは額に手をやって苦笑した。
「ちゃんと両親がいて、まともに育ってきたおまえさんたちにはわからんだろうな」
青みがかった灰色の瞳が二人を見る。服装からも子供たちが大切にされているのがわかる。贅沢ではないが仕立てのよい、清潔なものだ。
「俺の親は、二人とも子供の頃に死んだ。まだ十にもなっていなかった俺はいつも腹を空かせてた。生きるためなら何だってしてきたさ」
使い走り、下働き、仕事にありつけない時には盗み……。
「それでも子供がひとりで生きていくのは困難だった。栄養失調で行き倒れて死にかけていたところをケインに助けられたのさ」
もしケインと出会わなければ、とっくに野垂れ死にしていただろう。