第35話 輝く星

文字数 581文字

 (あらが)いがたい睡魔に襲われ、周囲の光景がぐるぐる回る。
 まさか、お茶の中に何か……。
 何が起きたか、まともに考えることさえできずに、勇利と梨華は折り重なるように床に倒れこむ。
 それを待っていたかのように小屋の反対側の入り口から二人の男が姿を現した。ケインとラルフだ。
「ご苦労だったな、ばあさん」
 梨華の体を軽々と片腕に抱いた男──ケインが老婆に金貨を握らせる。相棒のラルフが同じように勇利を抱える。
「あんた、その子たちをどうする気だい?」
 老婆は鋭い声で問いかけた。報酬につられて手を貸したものの、まだ幼い子供たちがこれからどうなるのか、不安になったのである。
「心配するなって」
 ケインは飄々(ひょうひょう)と笑ってみせる。
「俺は殺しなんて不粋な真似は嫌いだし、子供をさらって売り飛ばすなんてあくどい真似も大嫌いだ。なあに、この子らにはちょいと人質役をやってもらうだけさ」
「あんたが何を企んでいるかは知らないが、くれぐれもその子たちに手を出すんじゃないよ」
 強い口調で老婆は念を押した。子供たちに語ったことは嘘ではない。二人は真実、輝く星の下に生まれた双子なのだ。
 おう、とケインは片腕に梨華を抱えたまま、もう一方の手を上げてみせた。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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