第76話 にこやかに
文字数 546文字
とがめられた梨華は細い声で、
「母さまが心配で……。すぐに自分の部屋に帰るから、先生、中に入ってもいい?」
いいとも、と医師はうなずく。
「その代わり、お話がすんだらベッドに戻るんだよ」
父に支えられて寝台のそばまで行くと、梨華はおそるおそる声をかけた。
「母さま、ご病気なの?」
いいや、と阿梨は横になったまま、微笑んだ。
「でも具合が悪いのでしょう?」
「えーと、つまり、それは……」
言葉に窮する阿梨の後を、ムジーク医師が引き取るように、
「今、ちょっとお母さんの体調が悪いのはね、お腹に赤ちゃんがいるからなんだ」
唖然とする一同に、医師はにこやかに続ける。
「来年には、梨華ちゃんと勇利くんに弟か妹ができるよ。楽しみだね」
皆の視線が集中する中、阿梨はばつの悪い思いで、掛け布団を眼のところまで引っ張り上げた。
思い出した。以前にも一度、こんなことがあった。
昔のことなのですっかり忘れていたが、あれは勇利と梨華を身ごもった時だ。
なまじ普段が丈夫なだけに、具合が悪くて寝込むとかいう事態に慣れていない。
あの時も勇駿と二人で、生きるの死ぬのと大騒ぎした気がする……。
「母さまが心配で……。すぐに自分の部屋に帰るから、先生、中に入ってもいい?」
いいとも、と医師はうなずく。
「その代わり、お話がすんだらベッドに戻るんだよ」
父に支えられて寝台のそばまで行くと、梨華はおそるおそる声をかけた。
「母さま、ご病気なの?」
いいや、と阿梨は横になったまま、微笑んだ。
「でも具合が悪いのでしょう?」
「えーと、つまり、それは……」
言葉に窮する阿梨の後を、ムジーク医師が引き取るように、
「今、ちょっとお母さんの体調が悪いのはね、お腹に赤ちゃんがいるからなんだ」
唖然とする一同に、医師はにこやかに続ける。
「来年には、梨華ちゃんと勇利くんに弟か妹ができるよ。楽しみだね」
皆の視線が集中する中、阿梨はばつの悪い思いで、掛け布団を眼のところまで引っ張り上げた。
思い出した。以前にも一度、こんなことがあった。
昔のことなのですっかり忘れていたが、あれは勇利と梨華を身ごもった時だ。
なまじ普段が丈夫なだけに、具合が悪くて寝込むとかいう事態に慣れていない。
あの時も勇駿と二人で、生きるの死ぬのと大騒ぎした気がする……。