第47話 決裂

文字数 674文字

「俺はケインには返しきれないほどの恩義がある。だから彼の仕事を手伝う。が、俺たち悪党にも流儀がある。俺たちは殺しはやらない。絶対にだ」
 梨華はラルフをまっすぐに見つめ、
「ラルフ、あたしたちをここから帰して」
「はあ?」
 呆れたようにラルフは梨華を見つめ返す。この嬢ちゃんは突然、何を言い出すのか。
「今に母さまと水軍のみんながあたしたちを助けに来るわ。そうしたらあんたたちなんか、こてんぱんにやられちゃうんだから」
「父さま、じゃなくて母さまかい?」
「もちろん父さまも強いわよ。でもうちで一番強いのは母さまなの!」
 大真面目に話す梨華に、ラルフは声を上げて愉快そうに笑う。
「何よ、笑いごとじゃないわよ。あたしはあんたを心配して言ってるんだからね!」
「り、梨華、やめてよ、恥ずかしいよ」
 勇利は赤面して口をはさんだ。以前から感じていたのだが、どうもうちはよそとは少々違うらしい……。
 ひとしきり笑うとラルフはすっと表情を引きしめた。
「俺たちはこの依頼を仕事して請け負った。何が正しいかなんて関係ない。俺は俺の仕事を遂行するまでだ。指輪をいただくまでは、おまえさんたちを帰すわけにはいかねえ」
 さっきまでとは打って変わった鋭い眼光と冷酷な声が、梨華と勇利を凍てつかせる。
「話しあいは決裂だな」
 突き放すように言うと、ラルフは立ち上がり、戸口へ向かった。
「なあに、あと少しの辛抱だ。指輪を手に入れたら、ちゃんとここから帰してやるよ」




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。結婚して母となっても、変わらず颯爽と水軍を率いている。

勇駿(ゆうしゅん)


公私共に阿梨を支える夫。阿梨と子供たちをこよなく愛している。

梨華(りか)


双子の妹。母譲りの容姿と武術の才能を持つ。勝気な性格でいつも兄を振り回している。

勇利(ゆうり)


双子の兄。学問には秀でているが、ちょっと気弱。常に妹に押され気味。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父。以前は長の補佐として采配をふるっていたが、今は孫たちの教育がもっぱらの生きがい。

アディーナ姫


タジク国第一王女。二つの国の絆を深めるために海を渡る花嫁。金髪と緑の瞳の、美しく優しい姫君。

寄港地のフローレスでひと時の自由を願う。

ケイン


荒事屋。名の通り、目的のためなら荒っぽい手段も辞さない裏社会の人間だが、殺しはやらないのが信条。

ラルフ


ケインの相棒。孤児だった自分に手を差し伸べてくれたケインに恩義を感じ、行動を共にしている。

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