第42話 勇利の制止
文字数 560文字
手は縛られているが足は自由に動く。梨華は拳法が得意だ。幼いながらも大人相手に引けを取らない。
すうっと息を吸いこみ、勢いをつけて走りだす。そして眼の前の男に思いきり蹴りを入れてやる──つもりだった。
だが頭に血がのぼった梨華は、自分の腰と柱を結んでいる頑丈な縄の存在を忘れていた。あと一歩のところで動きは阻止され、蹴りは空しく宙を切った。
「きゃあ!」
均衡を崩した梨華は勢いあまって派手に床に叩きつけられる。
「梨華!」
自分も縛られたまま、勇利があわてて駆け寄る。
男はひゅう、と口笛を吹いた。
「惜しかったな、嬢ちゃん」
床に転がったまま、梨華がきっと男を睨みつけた時、
「しゃべりすぎだぞ、ケイン」
もうひとり、薄茶の髪を肩まで垂らした若い男がやって来る。
「なあに、相手は子供さ。しかもこちらの手の中だ」
「何事も決して油断するな、あんたの口癖だろうが」
咎めるような口調の若い男に、はいよ、と壮年の男は肩をすくめてみせる。
「じゃあな、迎えが来るまでおとなしくしてな」
そう言い残して二人がドアを閉めようとした時、
「待って!」
叫んだのは勇利だった。
男たちは動きを止め、勇利を凝視する。
すうっと息を吸いこみ、勢いをつけて走りだす。そして眼の前の男に思いきり蹴りを入れてやる──つもりだった。
だが頭に血がのぼった梨華は、自分の腰と柱を結んでいる頑丈な縄の存在を忘れていた。あと一歩のところで動きは阻止され、蹴りは空しく宙を切った。
「きゃあ!」
均衡を崩した梨華は勢いあまって派手に床に叩きつけられる。
「梨華!」
自分も縛られたまま、勇利があわてて駆け寄る。
男はひゅう、と口笛を吹いた。
「惜しかったな、嬢ちゃん」
床に転がったまま、梨華がきっと男を睨みつけた時、
「しゃべりすぎだぞ、ケイン」
もうひとり、薄茶の髪を肩まで垂らした若い男がやって来る。
「なあに、相手は子供さ。しかもこちらの手の中だ」
「何事も決して油断するな、あんたの口癖だろうが」
咎めるような口調の若い男に、はいよ、と壮年の男は肩をすくめてみせる。
「じゃあな、迎えが来るまでおとなしくしてな」
そう言い残して二人がドアを閉めようとした時、
「待って!」
叫んだのは勇利だった。
男たちは動きを止め、勇利を凝視する。