第53話 見事な手際
文字数 581文字
そして海からの風が周囲の煙を吹き流した時。
ケインと相棒のラルフの姿は消えていた。後にはフローレスの街で雇われた連中だけが残されていたが、抜け目ないあの男のことだ、計画の詳細など洩らしていはないだろう。証拠は何ひとつ残るまい。
敵ながら見事な手際だ。阿梨と勇駿は眼を合わせ、苦く笑った。
ひとまずは終わったのだ。
アディーナ姫の指輪はちゃんと阿梨の手にある。子供たちも無事だ。相手は逃がしたが、謀略は阻止できた。
「阿梨、腕……!」
勇駿は阿梨の右腕の傷に気づき、急いで布でしばって止血を施した。とりあえずの処置だ。
阿梨はわずかに顔を歪めたが、声ひとつ上げずに痛みをこらえる。
「母さまあ!」
梨華と勇利は阿梨にしがみつき、張りつめていた気がゆるんだのか、またもや盛大に涙をぽろぽろとこぼしている。
「傷、痛い?」
しゃくりあげながら聞いてくる子供たちに、
「かすり傷だ。どうということはない」
ほのかに笑んで二人を抱きしめる。
勇駿も子供たちの背中に片方ずつ手をかけて、何度もさすってやる。
しばらく親子四人はそうしていたが、やがて阿梨は子供たちの手を取ってゆっくりと立ち上がった。
「船へ帰ろう。わたしたちの家に。……お説教はそれからだ」
ケインと相棒のラルフの姿は消えていた。後にはフローレスの街で雇われた連中だけが残されていたが、抜け目ないあの男のことだ、計画の詳細など洩らしていはないだろう。証拠は何ひとつ残るまい。
敵ながら見事な手際だ。阿梨と勇駿は眼を合わせ、苦く笑った。
ひとまずは終わったのだ。
アディーナ姫の指輪はちゃんと阿梨の手にある。子供たちも無事だ。相手は逃がしたが、謀略は阻止できた。
「阿梨、腕……!」
勇駿は阿梨の右腕の傷に気づき、急いで布でしばって止血を施した。とりあえずの処置だ。
阿梨はわずかに顔を歪めたが、声ひとつ上げずに痛みをこらえる。
「母さまあ!」
梨華と勇利は阿梨にしがみつき、張りつめていた気がゆるんだのか、またもや盛大に涙をぽろぽろとこぼしている。
「傷、痛い?」
しゃくりあげながら聞いてくる子供たちに、
「かすり傷だ。どうということはない」
ほのかに笑んで二人を抱きしめる。
勇駿も子供たちの背中に片方ずつ手をかけて、何度もさすってやる。
しばらく親子四人はそうしていたが、やがて阿梨は子供たちの手を取ってゆっくりと立ち上がった。
「船へ帰ろう。わたしたちの家に。……お説教はそれからだ」