第7話 満ち足りた歳月
文字数 482文字
自分を包む勇駿の腕に、阿梨はそっと手をかける。
「わたしがこうして長を続けてこられたのは勇駿のおかげだ」
勇駿の夢のような十年は、阿梨にとっても満ち足りた歳月だった。
人の上に立つ者は孤独だというが、いつも勇駿がそばにいてくれたから、ついぞ孤独など感じたことはない。
阿梨の祖父──先代の長の片腕だった勇仁。彼の息子で五歳年上の勇駿は、阿梨が生まれた時からずっと彼女を守り、支えてくれた。
「感謝している」
「感謝だけか?」
「どうした、今夜は」
「たまには別の言葉を聞きたくなっただけだ」
わかりきったことを言わせる気か、と阿梨は微笑する。
「聞きたい。その唇から」
ゆっくりと立ち上がった阿梨は勇駿の腕の中で向き直り、頬を寄せた。
「ならば一度だけ言おう。二度は言わぬ。……愛している」
他の誰でもない。この胸が、このぬくもりがいい。
ありのままの自分を受け入れてくれる存在。魂の半分。
船窓からの月明かりが、重なりあう二つの影を淡く照らしていた。
「わたしがこうして長を続けてこられたのは勇駿のおかげだ」
勇駿の夢のような十年は、阿梨にとっても満ち足りた歳月だった。
人の上に立つ者は孤独だというが、いつも勇駿がそばにいてくれたから、ついぞ孤独など感じたことはない。
阿梨の祖父──先代の長の片腕だった勇仁。彼の息子で五歳年上の勇駿は、阿梨が生まれた時からずっと彼女を守り、支えてくれた。
「感謝している」
「感謝だけか?」
「どうした、今夜は」
「たまには別の言葉を聞きたくなっただけだ」
わかりきったことを言わせる気か、と阿梨は微笑する。
「聞きたい。その唇から」
ゆっくりと立ち上がった阿梨は勇駿の腕の中で向き直り、頬を寄せた。
「ならば一度だけ言おう。二度は言わぬ。……愛している」
他の誰でもない。この胸が、このぬくもりがいい。
ありのままの自分を受け入れてくれる存在。魂の半分。
船窓からの月明かりが、重なりあう二つの影を淡く照らしていた。