第2話 父の威厳
文字数 491文字
「父さま! 母さま!」
木刀を置き、甲板の縁に駆け寄って大きく手を振る子供たちに、女性は船を見上げ、笑顔で手を振り返す。
「勇利! 梨華!」
子供たちに呼びかける母は阿梨 。父は勇駿 。月日の経つのは早いもので二人が結婚して十年近くになる。
「義父 上、ただいま戻りました」
船へと続く渡し板を登り、夫と共に帰り着いた阿梨は、まず勇仁に頭を下げた。
勇仁は、うむ、とうなずき、
「首尾はいかがであった?」
「タジクの王家との契約、正式に調印いたしました」
「それは結構」
「後ほど詳細を報告にうかがいます。子供たちの相手をしていただき、ありがとうございました」
なんの、と勇仁はさらりと返す。
「今日は剣術の稽古をつけていたが、梨華はなかなか見どころがあるぞ。母親譲りじゃな。そなたの子供の頃にそっくりじゃ」
祖父の言葉に梨華は瞳を輝かせて、
「母さま、子供の時から強かったの?」
「ああ。何しろ初めて体術を習って、おまえたちの父を投げ飛ばしたくらいじゃ」
「父上、その話はどうかもう時効にしてください」
頭の後ろに手をやって勇駿がぼやく。そんな昔話をされたら、元々あまりない父の威厳がますます失われそうだ。
木刀を置き、甲板の縁に駆け寄って大きく手を振る子供たちに、女性は船を見上げ、笑顔で手を振り返す。
「勇利! 梨華!」
子供たちに呼びかける母は
「
船へと続く渡し板を登り、夫と共に帰り着いた阿梨は、まず勇仁に頭を下げた。
勇仁は、うむ、とうなずき、
「首尾はいかがであった?」
「タジクの王家との契約、正式に調印いたしました」
「それは結構」
「後ほど詳細を報告にうかがいます。子供たちの相手をしていただき、ありがとうございました」
なんの、と勇仁はさらりと返す。
「今日は剣術の稽古をつけていたが、梨華はなかなか見どころがあるぞ。母親譲りじゃな。そなたの子供の頃にそっくりじゃ」
祖父の言葉に梨華は瞳を輝かせて、
「母さま、子供の時から強かったの?」
「ああ。何しろ初めて体術を習って、おまえたちの父を投げ飛ばしたくらいじゃ」
「父上、その話はどうかもう時効にしてください」
頭の後ろに手をやって勇駿がぼやく。そんな昔話をされたら、元々あまりない父の威厳がますます失われそうだ。