第50話 指輪が欲しくば
文字数 695文字
「おい、親子の感動の対面はもう充分だろう。今度はこっちの番だ」
阿梨は顔を上げ、ああ、とケインに答えると、子供たちにそっと耳打ちした。
「後の木立ちの中に父さまと水軍の者たちが待っている。わたしが立ち上がったら、そちらへ全力で走れ」
「でも、母さまは……」
すでにケインの背後ではこの地で雇った男たちが武器を手に、殺気をみなぎらせて修道院の建物から次々と出てきている。
「わたしのことは案ずるな。今は自分たちの身の安全だけ考えよ。よいな?」
子供たちは唇を引き結び、こくりと首を振る。
指図通り、母が立ち上がると同時に、梨華と勇利は素早く走り出した。
「待てっ、話が違うぞ!」
予想外の成り行きに抗議の声を上げるケインの前に立ちはだかり、
「別に違わないとも。アディーナ姫の指輪はわたしの右手の指にある。欲しければ、わが腕を切り落として奪うがいい!」
叫ぶや否や、阿梨は上着の内側から短剣を取り出し、ケインに切りかかる。
ラルフはあわてて助太刀しようとしたが、
「手を出すな! こいつは俺と、この女の勝負だ!」
制止され、動きを止める。
その間にも阿梨とケインは激しく剣戟 を続けていく。
疾 い、とケインは思った。しかも両手使いだ。
懐に入られたのは失敗だった。長剣を持つ自分の方が有利なはずなのに、右左から狙ってくる短剣に圧倒され、かわすのが精一杯だ。
さすがは水軍を率いる長だ。指輪が欲しくばわが腕を切り落として奪え、そう豪語するだけのことはある。
阿梨は顔を上げ、ああ、とケインに答えると、子供たちにそっと耳打ちした。
「後の木立ちの中に父さまと水軍の者たちが待っている。わたしが立ち上がったら、そちらへ全力で走れ」
「でも、母さまは……」
すでにケインの背後ではこの地で雇った男たちが武器を手に、殺気をみなぎらせて修道院の建物から次々と出てきている。
「わたしのことは案ずるな。今は自分たちの身の安全だけ考えよ。よいな?」
子供たちは唇を引き結び、こくりと首を振る。
指図通り、母が立ち上がると同時に、梨華と勇利は素早く走り出した。
「待てっ、話が違うぞ!」
予想外の成り行きに抗議の声を上げるケインの前に立ちはだかり、
「別に違わないとも。アディーナ姫の指輪はわたしの右手の指にある。欲しければ、わが腕を切り落として奪うがいい!」
叫ぶや否や、阿梨は上着の内側から短剣を取り出し、ケインに切りかかる。
ラルフはあわてて助太刀しようとしたが、
「手を出すな! こいつは俺と、この女の勝負だ!」
制止され、動きを止める。
その間にも阿梨とケインは激しく
懐に入られたのは失敗だった。長剣を持つ自分の方が有利なはずなのに、右左から狙ってくる短剣に圧倒され、かわすのが精一杯だ。
さすがは水軍を率いる長だ。指輪が欲しくばわが腕を切り落として奪え、そう豪語するだけのことはある。