第38話 脅し文句
文字数 824文字
「どうした? そこには何が書いてあるのじゃ?」
勇仁に書きつけを手渡しながら、阿梨は絞り出すように声を出した。
「子供たちを預かったと……返して欲しくばアディーナ姫の持つエメラルドの指輪と交換だと……」
指輪? と勇仁は不可解そうに首をひねった。
「わからんな。アディーナ姫の持つ宝石を手に入れるために、どうして子供たちをさらう?」
阿梨は中空を睨み、拳でどんっ、と帆柱を叩いた。
「考えたな……相手は相当に頭の切れる奴だ」
「どういう意味じゃ?」
事の次第が呑みこめずにいる勇仁と勇駿に、阿梨は慎重に話し出した。
「もしも人質交換の相手がアディーナ姫であれば、この取引は成立しません。いくらあの子たちが羅紗の国王の孫で水軍の後継であろうと、婚礼を控えた一国の王女と引き換えにするなどあり得ません」
自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「嫁ぎ先に無事送り届けると契約した姫を、わが子可愛さに水軍が引き渡すなどできるはずがない」
「では、なぜ……?」
「子供たちをさらった連中はアディーナ姫ではなく、指輪を要求してきました。わたしはその品を姫から見せてもらったことがあります。サマルディンからの結納の品で、王家に代々伝わる由緒あるもの。花嫁は式の時には必ずその指輪をはめます。指輪がなければ婚礼に支障がでます」
そこまで聞いた勇仁ははっとして、
「つまりこれは婚礼を……タジクとサマルディンの結びつきをよく思わない一派の差し金だと?」
はい、と阿梨は確信を持って肯定した。
「アディーナ姫自身とでは不可能でも、品物ならば交渉する余地があると考えたのでしょう」
最後の行の脅し文句は陳腐なまでに月並みであったが、阿梨の心を抉 るのに充分だった。
もしも望みの品が手に入らない時は、子供たちの安全は保証できない──。
勇仁に書きつけを手渡しながら、阿梨は絞り出すように声を出した。
「子供たちを預かったと……返して欲しくばアディーナ姫の持つエメラルドの指輪と交換だと……」
指輪? と勇仁は不可解そうに首をひねった。
「わからんな。アディーナ姫の持つ宝石を手に入れるために、どうして子供たちをさらう?」
阿梨は中空を睨み、拳でどんっ、と帆柱を叩いた。
「考えたな……相手は相当に頭の切れる奴だ」
「どういう意味じゃ?」
事の次第が呑みこめずにいる勇仁と勇駿に、阿梨は慎重に話し出した。
「もしも人質交換の相手がアディーナ姫であれば、この取引は成立しません。いくらあの子たちが羅紗の国王の孫で水軍の後継であろうと、婚礼を控えた一国の王女と引き換えにするなどあり得ません」
自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「嫁ぎ先に無事送り届けると契約した姫を、わが子可愛さに水軍が引き渡すなどできるはずがない」
「では、なぜ……?」
「子供たちをさらった連中はアディーナ姫ではなく、指輪を要求してきました。わたしはその品を姫から見せてもらったことがあります。サマルディンからの結納の品で、王家に代々伝わる由緒あるもの。花嫁は式の時には必ずその指輪をはめます。指輪がなければ婚礼に支障がでます」
そこまで聞いた勇仁ははっとして、
「つまりこれは婚礼を……タジクとサマルディンの結びつきをよく思わない一派の差し金だと?」
はい、と阿梨は確信を持って肯定した。
「アディーナ姫自身とでは不可能でも、品物ならば交渉する余地があると考えたのでしょう」
最後の行の脅し文句は陳腐なまでに月並みであったが、阿梨の心を
もしも望みの品が手に入らない時は、子供たちの安全は保証できない──。