第19話 ピンポン玉は琉球グラスに跳ねる

文字数 783文字

親となった息子にねだられて、北部の工房に久々に寄ってみると、”ピンポンゲーム”と書かれた看板が目に止まる。興味を惹かれて近づくと、琉球グラスがいくつも置かれた大きな木の箱に向かってピンポンを投げ入れるゲームのようで、置かれたグラスにピンポン玉が入ると、賞品としてもらえるらしい。

「これは燃える」

恐らくは、少し出来の悪かったグラス用に作られたゲームなんだろうが、素人の吹きガラス体験でできたものより上等のグラスが並んでいるように見える。
”5球500円”
アウトレット商品の棚を見ると、2回で取れれば ”ちょっと損” くらいの賭けだ。

「このゲームはやらないとね」 妻も燃えるタイプだ

『いや、簡単に取れないでしょ』『無理そう』 息子夫婦は乗り気がない

『できないからイイわ』 孫娘は嫁に同調するが

「ボクやってみたいな」 孫息子はこっち側だった

意見の中を取るように、10球1000円で挑戦する。

息子と嫁が先陣を切ったが入らない
『これ、入らないって』 入らない奴の言うセリフはいつも同じだ

ところが
孫息子の投げた球がコンコンコンとあちこちに跳ねたあと、グラスに飛び込んだ。

「おめでとうございます」 
係のお姉さんが笑顔でグラスを取り上げ、新聞紙で包んでその場でくれた。

コロン!
なんと、妻の投げたピンポン玉もグラスに飛び込んだ。
「おめでとうございます」
8球で2個も成功させると、お姉さんの笑顔は強張っているように見えた。

コロン!
僕の投げた9球目もグラスに入ってしまった。
お姉さんは機械的にグラスを新聞で包み僕に差し出す。

3個も取ると
孫娘が投げた最後の球が外れた時は、なんだか安堵した。

最初に諦めた息子夫婦がガラス体験に向かって歩き出した
『工房で作りたかったからな』  

孫息子だけに聞こえる声で言ってやった
「あいつら取れなかったからな」

「そんなん言ったらアカンで」 笑顔でしたためられた。
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