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「さて、船長さんよ。金庫のありかを教えてもらおうか」
粗野な声が聞こえた。
シルフィは、上階層へ続く階段の一番上まであがり、目までをそっと上階に出し、船長室の方向を見た。
ケリーソンと、海盗賊らしき知らない男がいるのが見える。銃を向けているだけで、なぜかロープなどでの拘束はしていなかった。
海盗賊はこちらに背中を向けていた。ケリーソンはその足元に屈みこんで、テーブルの足をなぜかつかんでいる。
その理由はすぐにわかった。どけようとしていたのだ。それが済むと、次は敷いてあった絨毯をはがそうとする。
腕や足を拘束していないのは、こういった作業をさせるためだったようだ。
視線が低い位置になったケリーソンは、このときようやくシルフィに気づいた。
船長室の入口まで移動することを指で合図すると、わずかにうなずく。
そして相手の気を逸らすためだろう、急に話しかけた。
「なんで海盗賊なんてやってるんだ。フォントゥなら船の仕事なんていくらでもあるだろ。まっとうに働けよ」
相手は鼻で笑う。
「あの国ではな、バッワーの出じゃないと、出世なんて見込めないんだよ。バカバカしくてやってらんねぇ」
”バッワー”がなにを指すのかは気になったが、ここで話に聞き入ってしまってはすべてが水の泡だ。
音をたてないように気をつけながら、シルフィは戸の陰へと素早く移動した。
ケリーソンが絨毯をはがし、床を指してみせていた。相手がよく見ようと無意識に屈む。その瞬間、シルフィは短剣を床に滑らせた。
ケリーソンはそれをつかみ、立ち上がった。一瞬で相手の背後にまわり、喉元に短剣を突きつける。
「貴様っ……!」
「黙ってろ。でなきゃ咽喉を掻っ切るぞ」
ケリーソンが低い声で脅した。相手は黙った。形勢は完全に逆転していた。
シルフィが駆けこむと、銃を取りあげるように言われた。おっかなびっくり、相手の手から奪う。
それをケリーソンに渡すと、持ち替えて短剣を返してくれる。
「シルフィ、俺の衣装箱からスカーフを持ってこい。一番上に入ってるはずだ」
「うん」
言われた通りにすると、それで男にさるぐつわを噛ませるように言う。
さらに、通路からロープを持ってこさせ、それで腕と足を縛った。後ろ手にして攻撃できなようにし、足はかろうじて歩ける幅だけの余裕をもたせたうえで、ひっぱればすぐ転ばせることができるように、残りを長く取って手に持った。
「シルフィ、下から船首に出てくれ。これから俺がこいつを連れて上に出て、気を引く。そのあいだにおまえは捕まってる奴らのロープをなんとか切るんだ。できるか」
「わかった。やってみる」
「ただし、見つかったらおとなしく降伏しろ。命まで取られるのは割にあわん」
「うん」
「百数えたら、俺はこいつを連れて甲板に出る。いいな?」
シルフィは強く頷き、部屋を出て船首方向へと走った。
なるべく物音をたてないように気をつけ、船首楼の下に出る階段を、頭が甲板の上に出ない位置まで慎重に登り、待機する。
「おまえら、よく聞け!」
そして、打ち合わせ通りのタイミングで、ケリーソンの声が、甲板に響き渡った。