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今度は、調子までわかった。誰かが怒鳴っているような声だ。ただ、シルフィには言葉の意味まではわからない。現地語だったからだ。
ティシャを見ると、眉間に皺が寄っていた。
「隠れよう」
そう言って、近くの大きな岩の陰にはいる。
「どうして」
「嫌な話をしてる。女のほうが値段が高い、とかそんな話」
「値段?」
「しっ……」
ティシャが身を隠しながら窺う先を、シルフィも覗き込む。
思わず、息を飲んだ。
怯えた顔をした女性が二人、太い棍棒を握った体格の良い男二人に追い立てられるように歩いていた。怖れに足がすくむのか、何度も転びそうになり、そのたびに男たちに怒鳴られ、ひどいときは棍棒で殴られている。
思わずシルフィは飛び出しそうになったが、ティシャに止められた。
「だめだよ」
「だって」
「ちゃんと様子をみなきゃだめだ」
その言葉に、シルフィは動きを止めた。
どうやら、気持ちはティシャだって同じらしい。
そうこうしているうちに、連中の声が、急に聞こえなくなった。
しばらく待ったあと、顔を突き出してみると、大きな岩の陰に、洞窟の入口が隠れていたのがわかった。
岩伝いに身を隠しながらそっと忍び寄ってみる。見張りは特にいないようだった。
内側を覗いてみると、奥のほうでかすかな灯りが見えた。
二人は顔を見合わせ、頷き合うと、できるだけ気配を消しながら、中に入った。暗い壁沿いを慎重に、灯りの見える方向へと進む。
通路は、下へと軽く傾斜していた。しばらく行くと右にカーブしていたので、誰かとかち合ったりしないように、止まってまずは耳を澄ませた。
声が反響していた。さっきの二人組だろう。内容まではわからなかったが、下卑た調子は、あまり聞いていて気持ちのいいものではなかった。
おそるおそる顔だけ出して、先を見てみる。
灯火がひとつだけ置かれた薄暗い空洞があった。そこに、大きな檻が四つ置いてある。暗いので判別があまりよくできないが、なにかが入っているようだった。例の二人組が、嘲り笑いしながら格子に何度も蹴りを入れている。中にいるものを脅しているようだ。
「おい、帰るぞ」
手前にいた男が、奥へと声をかけた。
ティシャとシルフィは、あわてて通路を忍び足で戻った。外に出ると、すこし離れた岩陰に身を隠す。
二人組が足早に出てきた。その姿が見えなくなるまで待つ。
「どうする」
シルフィが話しかけると、ティシャは真剣な表情で答えた。
「最近、人が急にいなくなることが多いんだ。こいつらのせいなのかもしれない。あたしは確かめに行くから、あんたはひとりで帰んな」
「でも、あんたを放っておいて帰るなんて、できないよ」
シルフィの言葉に、意外そうな顔をした。
「あんたはよそ者だろ。これは地元の問題だ」
「確かめに行くだけだろ。つきあうよ。事情がわかったら、大人を呼びにいけばいい」
「そっか。ありがとう」
話が決まると、二人はすぐに洞窟へと用心しながら引きかえした。