- 5 - 友だちに別れを告げて
文字数 997文字
二隻の船が港へと帰ると、岸壁で待っていた連中が大騒ぎで迎えた。
救出した人間たちのほとんどは自力で立てないほど弱っていたので、ジェラニは船に乗せたままで手当てをさせることにした。岸に指示を出すと、すぐに医者とスープの鍋が運ばれてきた。
船の持ち主の男は、船室のひとつに拘束されている。ひと通りの手配を済ませたら、ジェラニが事情を訊くことになっていた。
シルフィはいったん、ティシャと一緒に下船した。
市場で見た女たちがすぐに寄ってきてティシャを抱きしめ、近くにあったベンチに座らせた。こういう時は慣れ親しんだ人たちに任せたほうがいいだろうと判断して、シルフィは場を離れ、船に戻ろうとした。なにか手伝うことがあるだろうと思ったからだ。
そのとき、集まっていたなかの一人が、声をかけてきた。
「あんたがティシャのこと、助けてくれたんだってね」
初老の女性だった。市場で店を出しているのを、見た覚えがあった。ティシャたちの店の近くだ。
「うん。だって、友だちだから。それにあたし一人でやったんじゃないよ」
「いやいや、偉かったねえ。それに比べて……、人さらいに協力するなんて、船乗りの恥だよ」
女性は薄汚れた船に目をやりながらため息をついた。
「しかもなにを血迷ったのか、族長の娘をさらうなんて」
「族長の……娘?」
思いもかけない言葉を聞いた。
「おや、知らなかったのかい。ジェラニはこのあたりで一番大きい部族を統率してるんだよ」
「き、聞いてなかった」
女性は笑った。
「あの子も、そんな事情を知らない友だちができて嬉しかったのかもしれないね」
「でも、そんな偉い人がなんで市場の店番なんてやってたの」
「ずっといるわけじゃない。ティシャの社会勉強のためだろ。あの子は後継ぎだからね。いろんなことを知っておかなきゃならない」
そんな話をしていると、背中に気配を感じた。
振り向くと、ティシャがいた。
「ちょっと、大丈夫なのかい」
心配する女性に頷いてみせたあと、シルフィを見た。
「船に手伝いに戻るの」
「うん」
「あたしも行く」
「……平気?」
「なんか……。なんかしてないと、落ち着かないんだ」
心配は心配だが、その気持ちもわかるような気がする。
「じゃ、一緒に行こうか。スープ飲ませたり、身体拭いたりするのに、いくらでも人手いるだろうから」
「うん」
シルフィはティシャの手を、ぎゅっと握った。そしてそのまま船へと向かった。