文字数 805文字

 食事を終えると、それからがまた大騒ぎだった。
 明日船を訪ねるという話を聞いて、ホリーがシルフィのドレスの心配をし始めたのだ。
 なにもおしゃれをする必要はないとティムは言ったが、ホリーは納得しなかった。

「そりゃ高級な生地のドレスを着せよう、ってんじゃないよ。そんなの無理だし。でもせめて、小綺麗に見られるようにはしてやんないと」

 そう言って、シルフィのドレスを引っぺがすように脱がすと、キッチンの冷たい水で洗い始めた。下着姿で震えていると、ベッドに入るように言われた。いつものようにウィルと一緒に潜り込み、被った毛布の隙間からホリーの背中を見つめるしかなかった。
 その間ティムはというと、ホリーに言われて、鋳物でできた厚手の片手鍋に水を張ったものを暖炉の中に突っ込み、直接熱に当てていた。
 どうするのかと思っていると、片づけたテーブルの上に洗い終わったドレスを広げた。さらにその上に薄布を載せ、熱くなった鍋の底を当てた。
 じゅうぅぅ、という音と共に、ドレスから蒸気が上がる。ホリーはそれを何度か繰り返す。そうして、毛布を取り除いたドレスは、皺がすっかり伸びていて、いつもより数段はマシに見えるようになっていた。それを見て満足したのか、ホリーはやっと作業をやめた。

「ありがとう」

 ベッドからシルフィが言うと、苦く笑いながら、頭を撫でてくれた。

「子供の将来が開けるかもしれないって時なんだ。親なんだから、これくらいの手間当たり前だろ。金持ちの子だったら新しい綺麗なドレスを買ってやれるんだけど、そういうわけにもいかないからね」

 そう言って横目でティムを見たが、相手はそれには気づいてないようだった。アイロン代わりに使われた鍋を持ち上げて、感心したように見回している。
 ホリーはそれを一瞬呆れた顔で見たが、結局、笑い出した。作業をしているあいだに出た温かい蒸気がまだ部屋の中にかすかに残っていて、その声に揺れていた。
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