文字数 604文字

 シルフィは港近くにある、この貧しい地区に生まれた。
 父のティムは船の積荷を運ぶ荷役作業者だったが、仕事にありつけるのは毎日とは限らなかった。元締めがその日その日の荷量に応じて必要な人数をピックアップするという方式なので、安定して雇われるということがないのだ。
 さらに港湾労働者にありがちな、少しでもまとまった金が入るとすぐに飲んでしまう性質(たち)だったので、家に入れる額は少なかった。
 しかたなく母親のホリーは近所からかけはぎやつぎ当て、ほつれ直しなどの仕事をもらってきて、生活を支えた。
 一間きりの狭い家の中で、他人の安物のドレスやジャケットに開いた穴を一日中ずっと塞いでいるのだ。とても効率のいい仕事とは言えなかったが、路上で呼び売りをするよりは、少しはましな金になった。腕さえよければ、頼まれる機会も増える。
 そうやって稼いだなけなしの金を、あろうことか無断で持ち出して賭けに使い、あげくに全部すってきたことに、ホリーの怒りが爆発した末の今夜の大ゲンカだった。
 こんなことはいつものことなので、シルフィもウィルも、正直もうあまり心が動かなくなってきていた。感じなくするように自分を抑えることに慣れた、というか。
 寒さで震えながら戻ってきた子供たちに、ホリーはぶっきらぼうに、早くベッドに入りなさい、とだけ言った。
 二人はおとなしく狭い子供用ベッドに姉弟で入り、寄り添って冷えた身体を温めながら眠りについた。
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