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街に入ると、まず宿に駆け込んでゲイルの部屋の扉を叩いた。
「どうした」
「ティシャを、ティシャを助けて!」
「ティシャ?」
「友だちだよ!」
「市場の子か。どうしたってんだ」
「悪い奴らに捕まったんだ。あたしを逃がしてくれた。助けを呼んでこい、って」
ゲイルはしばらく考え込んだ。
この街には警察のような組織はない。自警団が強いせいだ。
しかし、よそ者からすると、誰が自警団で、どこに行けば助けてもらえるのかもわからない。
どうしたものかと思ったが、とりあえずわかっているところから行くしかない、と決めた。
「その子のいた店に行こう。助けを呼ぶなら、ここの人間のほうが色々詳しい」
「うん」
市場へと駆け込み、ティシャがいた店に向かう。
今日の店番は、顎まで髭を生やした男だった。ケリーソンとゲイルの間くらいの年齢に見える。
「ティシャが」
突然現れたシルフィを不審そうに見ていたが、息をつきながらその名前を言うと、顔つきが変わった。
「ティシャがどうした」
「変な奴らに捕まってる」
「変な奴らって、どういうことだ」
「わかんない。洞窟にいる人たちを、弱らせてから売るって」
男は驚いた顔をしたが、どうも信用していいのかわからないらしく、シルフィの全身をじろじろと眺めた。
突然見知らぬよそ者がやってきて、助けを求めているのだ。シルフィが逆の立場だったら、自分だって用心する。
どうしたらティシャの友だちだとわかってもらえるか、と考え、前に描いてもらった腕の模様を思い出した。さいわい、まだ消していない。
「こ……これ。ティシャに描いてもらったんだ。友だちだから、って」
そう言って鳥の模様を見せると、それで信じてもらえたらしい。男は頷き、周りの店の連中に声をかけはじめた。現地語なのでわからないが、たぶん、助けに行く手伝いを頼んでいるのだろう。
男は体格もよく、大声でざっくばらんに話すタイプだったが、そのせいで声をかけていない人間にまで話が聞こえたらしい。周辺の店や買い物客が、次々と集まってきた。
口々になにかを言いあっているが、それがどんどんヒートアップして、ケンカでもないのにお互い怒鳴り合っているような状態になる。
そんなことよりはやく助けに、と、シルフィは言いたかったが、誰も耳を傾けようとはしない。
もう放っておいて、別の助けを探そうかと思った瞬間、最初に話した髭の男が、轟くような低音で、なにかを叫んだ。
その威厳のある調子に、思わずシルフィまで背を正す。
さっきまで好き勝手に騒いでいた連中も、一瞬で黙った。
「案内してくれ。俺はティシャの父親で、ジェラニって名前だ」
「あたしは、シルフィっていう」
「ああ、たしかにティシャから聞いた名前だ」
ジェラニは頷き、歩き始めると、さっきまで騒いでいた連中までついてきた。
さらに途中でそれぞれが勝手にあちこちの店番や通行人に声高に話しかけ、それを聞いた相手までついてくるので、どんどん人数が増えていった。
どちらかというと野次馬に近いノリのようではあったが、それでも、大勢の人間が協力してくれようとしているのは心強かった。