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 宿のある地区も、やはりかなりの賑わいだった。
 狭い通りの両側には似たような安宿が何軒も並んでいる。ここの宿は食堂を併設していないのが当たり前らしく、横道にはこれまた何軒もの居酒屋兼食事処がひしめきあって商売に励んでいた。
 この辺りを利用しているのは、投錨している船から降りている水夫たちだけでなく、行商人も多いようだ。しかも、大量の荷物を運んでいる者がほとんどだった。
 行き先を観察してみると、道の突き当たりにある市場に向かっていく者が多い。
 街の中心部に設営されたそこは、巨大なドーム型になっていた。雨風をしのげるようにかけられた白い屋根が、強い陽射しを反射して、まるでそれ自体が発光しているように光り輝いている。その眩しさは、シルフィのいる道の端からもよく見えた。
 空いている宿を見つけると、ゲイルとシルフィは隣り合った部屋を取った。船では同室なので、せめて陸にいるあいだはひとりで羽を伸ばしたいというのが、お互い本音だったからだ。
 部屋に入ると、まずは用意してあった水差しの中身をたらいに注ぎ、それに浸した布で身体を丁寧に拭いてきれいにする。井戸水を使っているのか水はわずかにひんやりとしていて気持ちがいい。塩でごわついた服も替え、ずいぶんとさっぱりした。
 外から聞こえる声に窓を開け、下を覗いてみると、食べ物売りの手押し車が、ちょうど通りがかっているところだった。台になった部分に載っているものが、上からだとよく見える。
 大きな分厚い緑色の葉の真ん中に、主食らしき白い練り物がありそのうえに焼いた肉が載せられたものが、いくつも並んでいた。脇にはカラフルな野菜の酢漬けらしきものが添えられた、いわばランチセットのようなものを売っているようだ。
 美味しそうに見えたので、すぐに宿の階段を駆け下り、買いに行った。
 一緒に飲み物も手に入れ部屋に戻ろうとすると、宿の出入り口のすぐわきのベンチに座って、商売をしている若者がいた。
 小さな紙に描いた絵を何枚も、壁に貼りつけたり足元に並べて売っている。
 シルフィは足を止め、思わず見入った。
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