- 1 - 新しい友だち

文字数 1,114文字

 鮫牙湾を出たデヒティネは、三週間かけて南北に長いグゥリシア大陸沿岸を南下した。
 そして大陸最南端の頑風(がんぷう)岬を過ぎ、東側へと回り北上するとすぐに、次の寄港地レオマヤに着いた。
 大陸最大とも言われる港で、大きく深い湾には、招き寄せる腕のように埠頭が何本も突き出し、ドックがいくつも並んでいた。荷役用だけでなく、修理のためのものも二か所あり、デヒティネより二回りも大きい船が手入れを受けていた。
 デヒティネは当初の目的通り、ここに三日ほど停泊する予定になっていた。積み荷をほぼ入れ替えることになるからだ。
 積んできた氷は、ここで全て降ろされる。
 それを売った金を資金にして、今度はこの大陸特産の染料を大量に買いつける。そしてそれを東の大陸、フーミダーラまで運ぶ。
 その地では綿織物が盛んなのだが、そのための染料として、品質の良いグゥリシア産染料は高値で売ることができるのだ。
 デヒティネはティー・クリッパー船と呼ばれていることからもわかるように、そもそも最終的な目的は、もっと東にある大陸フォントゥで産出される茶葉を買いつけ、最速でアーンバラまで持ち帰ることだ。
 しかしそれまでの長い航海のあいだ、こうやってあちこちに立ち寄っては交易をして、資金を増やしていくのも仕事のうちだった。
 ここらへんの取引は船長に一手に任されていて、雇う船主からすればこういった交渉能力の高さも、”腕の良さ”に含まれている。商船ならではの技能ともいえる。
 そんなわけで、ケリーソンは商売に強いトバイアスを右腕に、港に窓口事務所を開いている商会をあちこち交渉に回る必要がある。
 そのあいだ、船の補修や日用品積み込みに関係していない乗組員たちは、上陸していいことになっていた。ひさしぶりの長めの停泊に、港に着く何日も前から、誰もが浮き足立っていた。
 しかし、喜び勇んで降りていく船員たちの後から、初めてこの港に降りたシルフィは、一瞬、棒立ちになってしまった。
 カプ・ゥキャンの素朴な港とは明らかに桁違いの、アーンバラに匹敵、いやもしかしたらそれ以上の規模の大きさに圧倒されたのだ。
 デヒティネが停泊した荷下ろし用ドックには、降りるとすぐに通路兼作業場となる広い道があり、その向こうにはがっちりと堅固な石造りの倉庫がずらりと並んでいる。
 そのすぐそばには色々な会社の事務所が入った細身の三階建てが肩を寄せ合うようにしている。港の方向に必ずつけられている窓は実用一辺倒なものばかりでなく、ちょっとした装飾が施されているものもあり、経済的な余裕を感じさせる。
 道では、衝突事故を今にも起こしそうなスピードで行き交う荷車や港湾労働者たちがひっきりなしに行き交っていた。
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