第67話  播磨智徳の依頼1-5  三途の川

文字数 1,056文字

「なんじゃ?なんで人間がこんなところにいるんじゃ?」

賽の河原でたまたま通りがかった鬼が三途の川に落ちたために濡れて震えている3人の人間と遭遇した。

三途の川も近頃では護岸されているし、ちゃんと橋がかかっている。

児童虐待の問題があるので石を積み上げている子供もいないし、亡者の衣服を剥ぎ取るおばあちゃんもいない。

そんなのはずーっと昔のおとぎ話だ。

いくら冥界だと言っても変化や近代化がないわけがない。

今は亡者の選別も魂の洗浄も工場でシステマチックに行われる。

「君たち、生きた人間が来るところじゃないんじゃがな?まあ、どう見ても望んでやって来たようでもないがな。」

工場帰りの鬼はとりあえず来たばかりの3人の人間を魂の待機施設に連れて行く事にした。

「ぜーんぜーんイメージと違う。」

「ここ本当に冥界?」

林(りん)さんが濡れた道服の裾をたくし上げて乾燥の方術を唱える。

林さんの長い黒髪がふわりと舞い上がり暖かい空気に包まれて服や髪が乾いて行く。

林さんは見たところ20ぐらいのお姉さん。

「あ、私も」と言って30歳ぐらいのお兄さんも方術を使って衣服を乾かす。

お兄さんの周りにたくさんの水滴が出来ては消えていく。

このお兄さんは蔡(さい)さん。
直接水分を取り除く方術を使う。

「それ、僕にもして。」

見た目は小さな男の子の李(リ)さんが言う。

「自分ですれば?」

林さんが乾いた髪に櫛を通しながら言う。

「どうせ術式を発動するなら1人も2人も一緒じゃないか、ケチ。」

そう言いながら自分で服を乾かす。

見ただけでは何をしたのかわからないぐらいごく自然に服や髪が乾いて整っていく。

「あんたが一番方術が上手いんだから、さっさと3人まとめて乾かしてくれたら良かったのよ。体が冷えちゃったじゃないの。」

「そう言うな。李も何が起こったのかわからないくて気が動転していたのだろう。」

さすがは蔡さん、大人だ。

「この子は面倒くさいだけなの。」

林さんはとっても不機嫌。

通りがかった親切な鬼さんについていきながら状況を振り返ってみる。

ついさっきまでは事務所の実験室にいた。

アカシックレコードにリンクして個人を特定する情報を入力すると生前のその人物の記録や記憶などのデータを読み出してバーチャル霊を構築する。

だけれど、入力情報によっては手が3本あったり指が足りなかったり変なものができてしまう。

顧客には見えないから別にいいんだけどイタコレディが気持ち悪いとか言うので調整していた。

方術陣の呪字や方形を変化させて稼働テストをしているうちに方術陣に吸い込まれてしまったんだ。








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