第59話  悪霊狩り2 じいちゃんは悪霊

文字数 1,361文字

「ふん、内部告発だとう。正義感か何か知らんが愛社精神のない奴だ。」

この街で一番大きなビルの最上階。
中小企業とは言えない規模の企業の一室。
社内の一部の者には会長室とも霊安室とも言われている。

真っ黒な炎のようなゆらめきに包まれた半分骨になってしまった老人が怒っている。

「いやあ。愛社精神があるからいい会社にしようとして告発する前におじいちゃんに言ってきたんだと思うよ。」

もっとも言ってきた仕入れ担当の課長は魂魄が抜けて死んじゃったんだけれど。

元々会長のイエスマンばっかりだった役員達も肉体は殆ど腐敗してしまってあまり動かない。

今では次長や課長などの中間管理職は誰もこの階には上がって来ない。

なかなか勇気ある行動だったんだけど相手が悪霊じゃどうしようもない。

今では社長になった孫の播磨智徳(はりま とものり)がなんとか会社の存続を図っているところ。

留学から帰ったと思ったら両親は魄だけになっていて祖父も悪霊化しているし、頼みの役員達はとうに腐敗していて役に立たないしで頭が痛い。

「道師の勉強をしてきたからなんとか両親の悪霊化を防いで、おじいちゃんの動きを封じたけれどこれからどうしたものか。」

播磨智徳(はりま とものり)はたまたま旅行中に知り合った仙人?の久米師に仙骨があると言われて調子にのって中国内陸深くにあると言われる「崑崙仙道大学」に留学していた。

一応それっぽい術は使えるようになって卒業はしたものの帰って来て見れば親の会社は超ブラックになっているしで、全くの惨状だった。

しかも、既にそこそこの数の社員や社員の家族など会社に関連する人が死んじゃっているのでその隠蔽だけでも大変だった。

悪霊のおじいちゃんは魂魄を引き抜くだけでほったらかしだし困ったもんだ。

死んじゃった社員の所属を本社から子会社に移すなどして分散してこの会社との関連を薄くする事で警察の介入がないようにした。

おじいちゃんや両親、役員達はアンデッドにして生きているように偽装した。

それから総務に言って残業の禁止と有給休暇が自由に取れるようにした。

営業部では無理な目標設定をやめさせてノルマを妥当なものにさせた。

ご機嫌をとってくる部下の中でもパワハラをしていた管理職は降格して他の部署に配置替えをした。

経理には従業員に対する利益分配率の見直しをさせた。

会社が潰れてしまうと従業員とその家族を含めて何千人もの人達の生活に関わると思って会社が生き残るギリギリでだけれど成長政策は残すようにしたつもりだよ。

あとはおじいちゃん達をなんとか浄仏させないと。

おじいちゃんが悪霊化したのには理由がある。

父さんがパワハラとブラックの行き過ぎで従業員の恨みを買ったのだ。

夫婦で社長室にいる時に従業員を罵って怒った従業員に包丁でめった刺しにされた。

因果応報なので息子の僕としてもなんとも言えない。

おじいちゃんはそれを知って怒りすぎて脳溢血で死んでしまったのだけれど元々の執念深さと相まって怒りが強すぎて浄仏出来ずに現世に残された魄が悪霊化しちゃったんだ。

だけど世間で良くあるように孫にはめちゃ甘だったのでなんとか今まで大人しくなってもらったってところ。

でも魂を失った魄はどんどん記憶を失って孫の僕の事も忘れてしまう。

僕がおじいちゃんを抑えていられるのももうそんなに長くはないんだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み