第48話   平安の記憶

文字数 1,083文字

「ちょっと、ちょっと待ってよ晴明(ハルアキ)、道満(ミチミツ)もー。ずるいぞー、余も乗せろー。」

殿上人ではあっても道長(ミチナガ)は幼い頃から文武両方の教育を受けている。

体を鍛えているから足は速い。

弓を射らせたら武家である源頼光もびっくりなぐらいうまい。

それでも式神を乗り物代わりにして飛んで行かれたのではたまらない。

「いいぞ、道長(ミチナガ)。乗せてやろう。」

晴明や道満は殿上人である藤原道長にも全く容赦がない。

世情や立身に執着がないのに呪術による強大な力をもっていれば殺すかおもねるかのどちらかしかないが、源頼光ですらあいつらに弓弾くことは出来ないと言うのではしようがない。

くるりと翻って小さめの青龍が道長の方を向く。

「乗れ、道長(ミチナガ)。紫式部のところに行くのか?清少納言のところか?乗せて行ってやるが侍女ぐらいは紹介しろよ。」

「晴明(ハルアキ)、膝に小鬼を乗せたままではどうかと思うぞ。」

「ハルアキわしはあんこののった団子が食いたいのじゃ。」

「式鬼(シキ)なのに団子なんか喰うのか童羅(ドーラ)は。」

「鬼でも甘いものは好きじゃぞ。」

ついこの間の様な遠い記憶が蘇ってくる。

ドーラはあきらの膝の上でうつらうつらとしている。

あきらはと言うとボーっと扇風機に当たりながらテレビのニュースを見ている。

続いていた不審死の事件も終息したのか報道されなくなった。

事態は悪化しているはずなんだけれど原因も関連性も何もわからない。

報道しても説明が出来ないし話題を続ける事が出来ない。

ニュースソースとしては不人気な様だ。

もちろん鬼や妖達のやり口も巧妙になって事故や病気などに偽装するのが上手になったんだろう。

部屋の中では野良鬼や小妖達がセツヤとネズミ型の猫のおもちゃで遊んでいる。

ありさに並んで人化した猫又がキッチンで晩御飯の用意をしている。

「ユキオ家には連絡しているのか?」

「う、うん。」

ユキオの両親はプラモデル屋をやっている。

自作でフィギュアやガレージキットをつくっていて、店舗だけではなくネットでも販売している。

組み立て塗装も請け負っている。
ずっと夫婦2人でやってきたのだけれど最近注文が多くなってきたので2人ほど手伝いをしてくれる鬼を雇った。

アウラの知り合いでプラモデルが鬼って言われるぐらい大好きで(本当に鬼だし)夫婦も認めるほど組み立てや塗装が丁寧で美しいらしい。

ユキオは不規則な生活の両親を心配していたのだけど鬼達が掃除や食事の用意をして仕事の段取りや健康の管理までしてくれるので今は安心している様だ。

ユキオの両親も行き先があきらの所なので心配していないようだ。



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